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破産公告等に関する意見書を発出いたしました。

2022.06.24
意見書・声明文
   破産公告等に関する意見書

 

2022年6月24日

全国青年司法書士協議会
会長 内田 雅之

 


私たち全国青年司法書士協議会は、全国の青年司法書士約2400名で構成する「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体であり、これまで長年に亘って多重債務問題の抜本的解決に取り組んできた。
現在、貴部会において議論されている倒産手続のIT化に伴う破産公告の見直しについて、いわゆる「破産者マップ事件」等の発生により当事者の生活再建が阻害されることを防ぐ視点から以下の意見を述べる。

第1 意見の趣旨
1.破産法に規定されている「公告」に関して、債務者が法人でない破産手続については廃止し、知れている債権者に対して個別に通知することで足りるとする規定に改めることを求める。
2.民事再生法上の小規模個人再生・給与所得者等再生手続における「公告」を廃止し、知れている債権者に対して個別に通知することで足りるとする規定に改めることを求める。
3.仮に、上記の意見が採用されない場合であっても、上記各手続において、裁判所のウェブ公告を行う場合は、公告期間の制限、二次利用禁止の明示、複製防止等を施す等の各種措置を講じた上で、官報公告については廃止し、個人情報が不当に二次利用されることを防止することを求める。

第2 意見の理由
1.貴部会における議論
現在、法制審議会貴部会において倒産手続のIT化について議論されているが、法務省ホームページにおいて公開されている貴部会資料3・11頁において「(3) 公告 破産手続等における公告について 、官報に掲載してすることに加えて、 裁判所のウェブサイトに掲載する方法 といったインターネットを利用する方法をとらなければならないこととすること について、どのように考えるか。(注)そのほか、破産手続等 における公告の見直しについて、どのように考えるか。」と記載されている。
今回、破産手続等における公告について、官報公告に「加えて」、インターネット公告を行うという提案がなされているが、そのような立法事実があるのか、つまりは現在の官報公告の問題点や課題をインターネット公告により解消すべきかという視点が最も重要であると考える。

2.「破産者マップ」等の出現及びインターネットにおける官報の公開に関する問題点
この立法事実を検討するにあたり、平成31年3月中旬ごろ、インターネット上に「破産者マップ」というWEBサイト(以下、「破産者マップ」という。)が公開されたことが大きな問題となった。
この破産者マップは、過去に破産手続開始の決定及び再生手続開始の決定等(以下、併せて「破産手続開始の決定等」という。)を受け官報にて公告がされたその公告内容をデータベース化し、Googleマップというインターネット地図上にピンと呼ばれるしるしをつける形で表示させることで、過去に破産手続開始の決定等を受けた方々を地図上で容易に確認することができるようにしたものであった。
過去に破産手続開始の決定等を受けたという事実は、これを経験した方々にとって他人に知られたくない情報である。たとえ一度公告されている情報だとしても、みだりに開示されたくないと考えることが自然であり、「破産者マップ」の出現によって破産者等が受けた精神的苦痛は察するに余りある。同サイトの閉鎖後も、「モンスターマップ」「真実マップ」など同様のサイトが出現しては閉鎖することを繰り返しており、本日現在、現存しているサイトもある。
内閣府は、独立行政法人国立印刷局のWEBサイト「インターネット版官報」において、過去30日分の官報情報を無料で閲覧できる状態にし、また、「官報情報検索サービス」において、昭和22年5月3日以降の官報を検索・閲覧できる有料サービスを提供している。そして、それら提供されている情報の中には、破産者等の住所や氏名などの個人情報が含まれており、利用料さえ払えば、世界中の誰でもそれらの情報にアクセスし、取得・利用することができる状況にある。破産者マップは、この、「インターネット版官報」および「官報情報検索サービス」に掲載されていた個人情報をもとに作成されたものと推測される。
当協議会では、「破産者マップ」の出現以降、被掲載者の方々を対象とした無料の電話相談を実施しているが、そこには、自身の破産経歴によって子どもがいじめられ転校を検討せざるを得なくなるなど家族の生活に深刻な影響を与えることを危惧する声や、職場の同僚に知られてしまったことによって退職を余儀なくされ、体調に異変をきたし生活がままならなくなっているという悲痛な相談が多く寄せられており、看過できない問題となってしまっている。また、現行の官報公告制度に対する不満や問題提起なども少なくない。

3.インターネット社会における公告の性質の変化
破産法が手続の開始決定を官報に公告する趣旨は、「債権者、債務者その他多数の利害関係人に大きな影響を与えることから、裁判所は本条に定める公告等により、これを周知して、権利行使の機会を与えるとともに、第三者が不測の損害を被らないようにしたものである」(日本評論社『新基本法コンメンタール破産法』80頁)また、個人再生についてもその趣旨は同様である(伊藤眞『破産法・個人再生法』〔第5版〕876頁)。つまり、破産手続等における公告は、債権者その他利害関係人が権利を行使できる期間掲載されれば、その目的を十分に達成すると言える。本来的に、破産手続等終了後も当該事実を公開し続けることは当然に予定されておらず、むやみに公開を続けることで、これらの情報をいたずらに取得し目的外利用する無関係の第三者が出現することは当然に予見し得るものであり、その結果、手続を必要とする方々にそれを躊躇させ、破産法の本来の目的である、債務者の「経済生活の再生の機会の確保」(破産法第1条)・「経済生活の再生を図ることを目的とする」(民事再生法第1条)を損なうことになることは本末転倒と言わざるを得ない。
現状、官報紙面の情報を一部(一時的に)インターネット公開している状態においても、個人情報の不正な二次利用の事件が生じたわけではあるが、何らの対策なく、機械的に裁判所のウェブサイトに破産公告の掲載を行うことになれば、同様の被害が生じることが容易に予想される。
この点、「第三者の権利行使の機会を与える」という手続的必要性により許容される破産公告の一過性の性質が、容易に情報の取得・蓄積・再流通が可能であるインターネット上で公開されることにより変化していると捉え、その課題の克服を検討すべきであり、官報公告に「加えて」、裁判所のウェブ公告を行うという立法事実は無く、国民感情としても到底受け入れ難いものと考える。
むしろ、倒産手続のIT化において、こうしたインターネットの負の側面を踏まえて、部会資料注釈に記載のある「破産手続等における公告の見直し」がまさに求められていると言える。

4.意見1・2について(第三者の権利行使の機会とのバランス)
そこで、改めて、「破産手続等における公告の見直し」について検討すると、前述の公告の趣旨である「第三者の権利行使の機会」と、破産法第1条・民事再生法第1条に掲げられた「経済生活の再生」の理念及び、憲法第13条で保障される幸福追求権内のプライバシー権に位置づけられると解釈されている「忘れられる権利」との均衡により手続の内容が決されるべきであると考える。
ここで、債権者の権利行使の機会を検討すると、特に個人破産の場合は、実務上も申立人の申出及び信用情報機関に対する調査等で判明した債権者以外が存在する事例は少なく、また、官報公告のインターネット公開により事実上誰でも閲覧可能な破産公告により、新たに債権者より申出があるのか・申出を行う債権者の属性などは司法統計上は明らかにされておらず、破産者の生活再建を犠牲にしてまで公告を維持すべきという論拠としては採用しがたい。
また、破産法第253条において、破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債権者については、免責許可の決定の効果が及ばないと規定されていることから、申立人の失念によって債権者名簿に記載しなかった場合も同条により免責許可の決定の効果が及ばないと解されている。このため、実務上、免責許可決定後に債権者名簿に記載されなかった債権者が、公告により免責の効果が及ぶものではないとして、個別に権利行使を行う事例は多数存在している。このことから、公告を廃止したとしても、特に配当の見込めない同時廃止などの個人破産手続については、債権者の権利行使機会は必ずしも奪われない。なお、個人再生についても同様に手続に漏れた債権者は、民事再生法第232条により他の届出債権と同様に変更されるものの、失権はしない。
以上の通り、多数の債権者を調整する必要がある大規模な法人破産とは異なり、個人破産においては公告が手続上必要不可欠とは言い難い状況である。一方で、手続が終了して以降も、複製等により劣化しないデジタル情報として半永久的に公開される状態に置くことは、破産者等に対する制裁以外の何物でもなく、破産法の理念に強く反する。
以上を踏まえ、破産法および民事再生法に規定されている「公告」(破産法第32条第1項等)に関して、個人が債務者となる手続については廃止し、知れている債権者に対して個別に通知する(破産法第32条第3項等)ことをもって足りるとする規定に改めることを求める。

5.意見3について(不正な二次利用の防止)
仮に上記の意見が採用されない場合であっても、前述した通り、官報公告とウェブ公告を併存させる必要性は無く、破産法の目的との関係においても、最低限の公表期間が過ぎさえすれば、後はインターネット上でいつまでも公開し続けることは慎むべきであるから、他にも多様な公告事項を掲載していることを理由に、こうした対応が柔軟にできない官報公告を廃止し、より柔軟に対応のできる裁判所のウェブ公告に一本化すべきである。
また、裁判所のウェブ公告に移行する場合も、掲載情報の二次利用禁止を明示し、複製防止の技術的措置や、「第三者の権利行使の機会を与える」という手続的必要性により許容される一定期間後の情報削除(例えば、部会参考資料3の35頁にある通り、ドイツでは債務者が消費者である場合には、2週間経過後は情報を呼び出すには倒産裁判所の特定及び債務者の特定情報が必要となり、倒産手続の終結等から6ヵ月が経つと削除される)といった対策を施し、不正に二次利用されることを防止することを求める。
また、公開を続ける以上は、同時に個人の破産および再生手続の経歴やいわゆる信用情報を、個人情報の保護に関する法律第2条第3項に定める「要配慮個人情報」に含めるような対策も必要であると考える。
この点、同様の動きとして、「第三者の権利行使の機会の確保」として会社・法人の登記情報が公開されているが、個人情報の保護等の観点から、電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部改正が行われ、インターネット上で閲覧可能な登記情報提供サービスにおいては、令和4年9月1日より会社・法人の代表者等の住所を一律で表示しない変更が行われる。このように手続必要性がある場合であったとしても、インターネット上で際限なく住所・氏名を公開する制度を改めており、裁判所のウェブ公告に移行する場合も同様の対策は十分に取り得るものと考えられる。
なお、破産法の改正を議論する貴部会に対する意見の本論から外れるために詳述は避けたいが、官報公告のインターネット公開に対する問題意識については、当協議会が令和2年2月17日に発出した「破産者等の個人情報に配慮した対応及び法整備を求める申入書」(https://zenseishi.com/opinion/2020-02-17-01.html)こちら

において詳細に述べており、参照頂きたい。

第3 最後に
当初出現した「破産者マップ」は既に閉鎖されているものの、同様のWEBサイトがいくつも出現し、匿名掲示板への書き込みが相次ぐなど、問題は一向に収束しないばかりか、海外の匿名サーバーを利用することで運営者の特定を困難にするなど、事態は深刻化している。そして、これらは全て、破産手続開始の決定等が「インターネット版官報」によって公開され、手続が終了した後も不必要にインターネット上で閲覧可能とされていることに端を発し、結果的に半永久的に破産者等の情報が晒されてしまう結果になっているものである。
この状況を踏まえ、破産者等の個人情報が、不必要に複製・拡散されないような検討・取り組みが早急に求められている中で、官報公告に加え、安易に裁判所のインターネット公告を行うことは社会的要請に逆行するものである。倒産法「IT」化を検討する法制審議会部会であるからこそ、インターネット社会におけるプライバシー保護と手続的必要性の妥協点を真正面から検討することが求められている。
よって、意見の趣旨記載の通り、破産公告等の見直しを求める次第である。

破産公告等に関する意見書 はこちらから。