生活保護基準引下げの違法性を認定し保護費減額の処分を取り消す判決を評価し、全ての生活保護利用者に対し適切な補償をすること、および生活保護制度に関する社会の偏見・差別をなくすことを求める会長声明
2025年 8月 5日
全国青年司法書士協議会
会長 加藤 圭
令和7年6月27日最高裁判所第三小法廷において、大阪府内と愛知県内の生活保護利用者が生活保護基準の引下げに係る保護費減額処分の取消し等を求めた訴訟の上告審の判決が言い渡され、平成25年から平成27年にかけて行われた生活保護基準の引下げを理由とする保護費減額処分は生活保護法に反し違法であるとして、各処分の取消しを認める統一判断が示された。
当協議会は、厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、本件生活保護基準の引下げ処分を違法とした本判決を高く評価する。しかし、宇賀克也裁判官(当時)の反対意見で述べられているとおり、原告らが最低限度の生活の需要を満たすことができない状態を強いられてきた精神的損害を慰謝するため国家賠償法に基づく損害賠償請求も認容するべきであり、国はこの意見を重く受け止めねばならない。
この生活保護基準の引下げは、多くの問題を含むものであった。ことに、今回違法とされたいわゆる「デフレ調整」に関しては、算出の起点となる年や物価下落に関する計算方式が恣意的に採用され、さらには生活保護基準部会等の専門家に諮られることもなく実際の物価下落率をはるかに上回る数値が算出された。当協議会はこの引下げを、生活保護利用者の生活を何ら慮ることなく実行された重大な人権侵害であったと考える。
「生活保護の被保護者調査(令和5年度確定値)」によると生活保護実員数は約202万人、被保護世帯数は約165万世帯とされ、捕捉率(生活保護を利用する資格のある人のうち現に利用している人の割合)は2割程度とされており、先進諸外国と比較しても低い数字と言われている。これは、生活保護制度自体の障壁や、制度に対する誤解や偏見による影響が大きい。そして全国で提訴されている生活保護基準引下げ処分の取消訴訟を取り巻くネガティブな情報発信が多くなされ、結果、生活保護利用者に対するバッシングが発生している状況である。
よって、当協議会は、国に対し、①本判決について今一度真摯に向き合い、違法とされた生活保護基準の引下げによって権利を侵害された生活保護利用者に対し、引下げ前の基準による生活保護費の差額を支給する等の適切な補償を行うこと、②生活保護制度について正しい情報を市民に周知することで偏見や差別、バッシングを防止し、生活保護を必要とする全ての人が安心して利用できる制度とすることを強く求める。
当協議会は、平成17年以降全国一斉の生活保護相談会を18年連続で開催しており、その中で生活保護制度に対するマイナスのイメージや行政の不適切な対応から、生活保護の申請をためらい、最低生活費以下での生活を強いられている方や、昨今の物価高騰の影響もあり生活保護費のみでの生活の苦しさを訴える方の声も多く受けてきた。改めて、これからも各種相談事業を通じて、生活困窮に陥った市民と真摯に向き合っていくとともに、生活保護制度について、社会に存在するいわれなき偏見や差別を是正すべく声を上げ続けていく。