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「国旗の損壊等の処罰に関する法律」に反対する会長声明を発出いたしました

2026.08.12

「国旗の損壊等の処罰に関する法律」に反対する会長声明

全国青年司法書士協議会
会長 岩田 豪

1.2026年6月16日、自由民主党、日本維新の会、国民民主党、参政党の4党は、「国旗の損壊等の処罰に関する法律案」(以下「本法案」という。)を衆議院に共同提出し、6月30日に衆議院本会議で可決、7月17日には参議院本会議で可決して成立した。
 「国旗の損壊等の処罰に関する法律」(以下「本法」という。)は、「国旗及び国歌に関する法律」(平成十一年法律第百二十七号)に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物を人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処すると規定している。その客体は、自己所有物を含むものである。しかしながら、本法には立法事実が存在しないうえ、憲法上重大な問題がある。

2.そもそも、「国旗及び国歌に関する法律」制定時、政府は「国旗の損壊等を新たに刑罰の対象とすることは考えていない」旨を回答している(1999(平成11)年6月11日内閣総理大臣小渕恵三答弁書(内閣衆質145第31号))。これに反するかたちで本法を制定するためには、相応の立法事実が必要である。本法案の審議において、法案提出者が立法事実として紹介した1987年から2008年にかけての4件の事例は、いずれも現行法の器物損壊罪や暴行罪などで立件されたものであり、新たな刑罰法規の創設を正当化する根拠にはなり得ない。本法の独自性が問われる自己所有の国旗の損壊事例についても、これが罰則をもって取り締まらなければならないほど社会にまん延して治安・法秩序が危機に瀕している状態とはいえず、立法事実は明らかにされていない。さらにいえば、本法案の審議において、法案提出者が「予防的立法事実」という従来の法律用語にはない概念を提示しなければ本法の必要性を説明できなかったこと自体、立法事実が存在しないことを端的に示している。

3.本法は、国旗の損壊等を伴う表現内容を規制するものであり、憲法第19条(思想及び良心の自由)、第21条(表現の自由)及び第14条(法の下の平等)の観点から問題である。ここで、表現内容に対する規制は、民主主義の根幹にかかわるため、憲法上最も厳格な審査基準が要求される。規制が正当化されるためには、真にやむを得ない規制目的が存在し、当該目的の必要最小限度の達成手段であることが必要である。
 本法の保護法益について、法案提出者は、「国旗を大切に思う国民感情」であると説明している。「日の丸」は、国旗として社会的に定着している一方で、近代日本の戦争の歴史や戦後の学校現場における国旗掲揚・国歌斉唱をめぐる対立等を背景として、「日の丸」に対する国民の受け止めは必ずしも一様ではない。民主主義社会においては、国旗に敬意を抱く自由が尊重されるべきであるのと同様に、国旗に対して批判的又は複雑な感情を抱く自由もまた尊重・保護されなければならない。したがって、「国旗を大切に思う国民感情」のみを国家が選別して保護することは、真にやむを得ない規制目的とは評価できない。
 また、意見を異にする者の表現は、時として「不快」なものと受け止められ得る。しかし、民主主義社会においては、この「不快」に対抗する方法は自由な議論によるべきである。自由な議論によらず罰則で規制することは、「国旗を大切に思う国民感情」を保護する目的の必要最小限度の達成手段とはいえない。
 したがって、本法は、憲法第19条が保障する思想及び良心の自由並びに憲法第21条第1項が保障する表現の自由を侵害するおそれが極めて大きい。
 さらに、本法の施行により、法律が罰則を用いて特定の価値観を持つ者の感情を保護することとなり、国旗に対して批判的又は否定的な思想・良心を有する者による政治的表現行為を萎縮させるものである。国旗を尊重する表現は選別して保護する一方、国旗を批判的に扱う表現は罰する取扱いは、憲法第14条が禁止する信条による差別の問題も生じうる。

4.罪刑法定主義(憲法第31条)の派生原則として、刑罰法規の内容は具体的かつ明確に規定されていなければならないという明確性の原則がある。判例は、「ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法第31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。」としている(徳島市公安条例事件・最大判昭和50年9月10日)。
 本法では、構成要件として「社会通念上」「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させる」という極めて曖昧な基準を用いている。本法が定義する「国旗」に該当するか否かは「社会通念上」の判断を必要としており、明確ではない。また、ある行為が「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」か否かは、「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情」を「総合的に勘案して」判断するとされており、どのような行為が処罰に値するものなのか基準が明確ではない。さらに、「不快」「嫌悪の情」といった主観的かつ抽象的な構成要件は、公権力による恣意的な運用・拡大解釈を招くおそれもある。
 したがって、国民・市民は、何が処罰される行為なのかを事前に予測することは困難であるので、本法は刑罰法規としての明確性を欠き、適正手続の保障を定める憲法第31条に反する。

5.本法では、「著しく不快又は嫌悪の情」という、個人の主観的な感情によって捜査機関への告発が可能となる。本法による捜査・訴追・裁判の対象となった場合、最終的に無罪となったとしても、長期にわたり被疑者・被告人として扱われかねず、人権侵害は回復し難いものである。また、国民・市民の間で相互監視が強まり、国旗を用いた表現行為の現場において、意見を異にする者に対して「不快」「嫌悪の情」による私人逮捕も起こりかねない。本法の罰則規定は、「国旗を大切に思う国民感情」という抽象的な保護法益に比べて、弊害が極めて大きい。
 さらに、本法の附則では、施行後3年を目途として、国旗を損壊する等の状況に係る映像に関するインターネット等の利用状況等を勘案し、国旗を大切に思う国民感情を保護するのに必要かつ十分なものとなっているか等を検討する旨、そして、「必要があると認められるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする」旨を定めている。これは、国家による監視を行った上で、将来的に処罰範囲を拡大することを志向するものであり、断じて容認できない。

6.以上のとおり、本法は、思想・良心の自由及び表現の自由を侵害し、信条による差別的取扱いを引き起こし、罪刑法定主義・明確性の原則にも反し、さらには、将来的な処罰範囲拡大のおそれもあるなど、あまりにも多くの問題点をはらむものである。よって、当協議会は、民主主義の根幹を損なう本法に反対し、速やかな廃止を求める。