「⺠法第三百⼋条の⼆の規定による⼦の監護費⽤の先取特権に係る額の算定等に関す
る省令案」に関する意⾒
2025年10月 2日
全国青年司法書士協議会
会 長 加藤 圭
当協議会は、標記について、次のとおり意見を申し述べる。
①先取特権の額の算定に関する事項(省令案第1条関係)
【意見】
賛成する。
【理由】
先取特権の上限を一律に定めたことは、先取特権に基づく手続きの明確性の観点から賛成する。これは、債務名義によらない合意書等によって定めた養育費について、債権者は複雑な計算を要することなく簡易・迅速に強制執行を行うことができるためである。
ただし、子の健全な育成のためには、毎月の定期金だけでなく、子の医療費など特別な事情で発生した費用の全部又は一部についても、優先的に支払を受けられるようにするべきである。その場合、疎明資料(領収書など)で発生した費用を明確にすることを条件に、先取特権の上限額を拡張することが考えられる。
加えて、国及び裁判所は、パンフレットの作成、手続方法の周知、強制執行の申立に関する書式を簡易な様式にて作成し配布するなど、手続きに慣れない市民も先取特権に基づく手続きを行えるよう努めるべきである。
②法定養育費の額の算定に関する事項(省令案第2条関係)
【意見】
賛成する。
【理由】
法定養育費の金額を一律に定めたことは、明確性や予測可能性の観点から賛成する。
一方で、「毎月二万円×子の人数」という金額に関しては、改正民法766条の3における「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額」として十分なものか疑問である。金額の根拠として生活保護基準や母子家庭の平均支出等が挙げられているが、これらが「最低限度の生活」の根拠としてふさわしいかは定かでなく、昨今の物価高の影響等を鑑みれば、今後得られる統計等を利用して随時見直しを図るべきと考える(③省令案附則に関する事項に対する意見に記載のとおり)。
また、施行にあたっては本制度の概要・趣旨・運用方法等の市民に対する周知が不可欠と考える。具体的には、養育費の取決めがない場合に法定養育費を請求できる(又は請求される)こと、取決めをする際の手続方法を自治体の窓口等で案内するなどである。同時に、法定養育費の額はあくまで養育費の取決めがない場合に個別の事情を考慮せずに定められる金額であり、当事者が養育費を定めるに当たっての規準額を示しているものではないことも周知していく必要がある。
③省令案附則に関する事項
【意見】
賛成する。
【理由】
省令において規定された先取特権の上限や法定養育費の金額の妥当性を検討する上でも、施行の状況、社会経済情勢の変化等を勘案することは必要である。制度の実施にあたり、先取特権に基づく債権執行の申立件数や、関連して取立届・支払を受けていない旨の届出・取下げがなされた件数の動向を司法統計等含めて公表することを求める。また、離婚にあたって協議がなされず法定養育費となった類型において、その後、調停又は審判が申し立てられた件数、その結果定められた養育費の金額及び調停成立又は審判がなされるまでの期間についても公表すべきである。当該統計をもとに、先取特権の上限や法定養育費の金額の妥当性を随時検討する仕組みの構築を検討すべきと考える。
当該統計をもとに今後、省令にとらわれず、離婚にあたって養育費の取り決めを義務化し法定養育費制度自体を廃止する等、新たな民法の改正を検討する機会とすべきである。また、このほか、養育費の支払いの実効性が担保されない場合には、国が養育費を子の監護が必要な親に支払ったうえで非監護親へ請求するといった、子どもの成長を国が扶ける制度を構築する等、所要の措置を講ずる機会とすべきと考える。
出典:「民法第三百八条の二の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令案」に関する意見募集
(e-Govパブリックコメント)