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意見書・会長声明等

民事裁判手続のIT化のあり方及び本人訴訟支援の方策についての会長声明

2020.05.20
会長声明

民事裁判手続のIT化のあり方及び本人訴訟支援の方策についての会長声明

2020年5月20日
全国青年司法書士協議会
会長 川上真吾

 法制審議会第186回会議(令和2年2月21日開催)において、民事裁判手続のIT化に関し、諮問第111号で「近年における情報通信技術の進展等の社会経済情勢の変化への対応を図るとともに、時代に即して、民事訴訟制度をより一層、適正かつ迅速なものとし、国民に利用しやすくするという観点から、訴状等のオンライン提出、訴訟記録の電子化、情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など民事訴訟制度の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」との諮問がなされた。
 そこで、当協議会では、法制審議会での検討が開始されるにあたって以下のとおり会長声明を発出する。   

第1.民事裁判手続のIT化について
1.訴状等のオンライン提出について
 民事裁判手続のIT化を検討するに際しては、民事裁判手続のIT化によって、IT機器を利用することができない方やITに習熟していない方等の裁判を受ける権利を侵害することがないよう留意する必要がある。
 そのため、代理人として弁護士等が選任されていない本人訴訟においては、市民の司法アクセスを阻害され、裁判の受ける権利が侵害されることのないよう、充分に配慮した制度設計が必要であり、当面は、本人訴訟については書面による提出とオンラインによる提出を選択できるようにすべきである。
 他方で民事裁判手続のIT化を推進するにあたっては、司法書士・弁護士等の代理人に対し、民事裁判手続のIT化に対応するための機器や通信環境等の整備を求め、操作などの対応スキルについても、所属団体において習熟する機会を設けるなど、積極的な利用促進を図るべきである。専門職が先鞭をつけることで訴状等のオンライン提出の利用率が高まり市民への浸透にも資することから、代理人として弁護士等が選任されたときについては、オンライン提出を義務化すべきである。

2.訴状等のオンライン提出の利用促進策について
 訴状等のオンライン提出を円滑に実現するためには、手続上のインセンティブを設けることや訴訟費用制度全般の利便性向上のための検討を行うことが必要であると考えられる。
 登記手続については平成17年よりオンライン登記手続が導入され、併せて利用促進のため、平成19年4月より登記事項証明書の手数料の減額、平成20年1月より登録免許税額の減額といったインセンティブ措置が講じられた。権利に関する登記のオンライン申請の利用率は、平成19年12月は0.36%であったところ、平成21年7月には16.6%にまで増加し(注1)、インセンティブの付与により利用促進の効果があったものと考えられる。
 訴状等のオンライン提出の導入にあたっても、訴訟費用等(訴訟記録の閲覧・謄写に係る手数料を含む。)を減額するなど経済的インセンティブの付与を検討することで、より積極的な利用に繋げることができると考える。
 また、現行法下の手数料の納入方法は訴状その他の申立書又は申立ての趣意を記載した調書には収入印紙を貼付し提出し、別途、送達費用等については郵券で予納する方法となっているが、利用者からすれば申立てに先立ち、印紙や郵券の購入をしなければならず、裁判所からすれば郵券の管理等の事務負担がかかり不便である。訴訟費用等の納入方法については電子納付(電子納付の方法としては、オンライン決済だけでなく、銀行ATMでの振込みやバーコード付き払込票によるコンビニ決済の方法も含む)に一本化することが相当である。

第2.本人訴訟支援について
 民事裁判手続のIT化により、市民にとって敷居の高い裁判手続がさらに面倒で迂遠なものとなり、司法アクセスが後退することのないよう、各関係機関により充実したサポートが必要である。
ところで、平成30年の民事第一審通常訴訟既済事件において弁護士も司法書士も選任されなかった事件の割合は、簡易裁判所では93.8%、地方裁判所においても54.5%にのぼる(注2)。弁護士が大幅増員された現在においてもこのような状況にある。
 本人が弁護士を選任しなかった理由は、原告事件では、1位(62.9%)に「自分自身で訴訟追行したいという意欲が高い」、2位(55.2%)に「自己の能力に自信がある」となっており費用対効果(44.0%)や経済的理由(25.9%)よりも上位を占めている(注3)。このように自らの手で訴訟をしたいとの意思を有している本人訴訟当事者においては、法律専門家を代理人として訴訟追行することは考えにくい。
 この点、「民事司法制度改革の推進について」(令和2年3月10日民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議)においては、弁護士・司法書士により代理業務が可能な範囲でのサポートにスポットを当てているが、それ以外の本人訴訟への支援策は十分に検討がされていない。
私たち司法書士は、今までも裁判書類作成業務(司法書士法第3条第1項第4号)及びその相談業務(同項第5号)を通じて本人訴訟の支援を行ってきた。民事裁判手続のIT化が推進された後も、それら業務を通じて、利用者のニーズにあわせ、IT面のサポートを含めた支援を行っていくことは容易である。
 また、「法律専門家に依頼をせず自分で訴訟追行したい」というニーズについては、本人訴訟率の高いアメリカ合衆国等の諸外国のリーガルサービス(注4)を参考に我が国の実情に合ったサポートを提供していくことが考えられる。
 当協議会は、民事裁判手続のIT化に向けた民事訴訟法などの改正に向けた検討において、代理人の選任を希望しない市民にとって民事裁判手続が利用しやすい制度設計がなされるよう、引き続き注視していく所存である。                                                 以上

(注1)佐藤利弘・清水慶徳「不動産登記のオンライン申請制度の概要と今後について」(日本土地家屋調査士会連合会『土地家屋調査士』 2009.12月号 NO.635 6頁以下)
(注2)裁判所のウェブサイトに掲載された司法統計による。
(注3)司法研修所編『本人訴訟に関する実証的研究』11頁
(注4)ワシントン州で実施されているLLLT制度は、弁護士資格の無い者で裁判所規則に則り限定的な法律事務に従事する権限を有する、訓練された実務家が本人訴訟当事者に対して、範囲は限定されているがリーガルサービスを提供している。また、ロサンゼルス、サンフランシスコでは、代理人が無くとも自分で訴訟手続ができるように法情報や書式の提供、相談等を行うセルフヘルプセンターが設置されていたり、訴訟の一部だけ代理人を付すリーガルサービスがある。