破産者マップに関する会長声明
2019年4月3日
全国青年司法書士協議会
会長 半田久之
私たち全国青年司法書士協議会は、全国の青年司法書士約2600名で構成する「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体である。
当協議会は、これまで長年に亘って多重債務の問題に取り組んできたことから、「破産者マップ」のような人権侵害を容認せず、下記のとおり声明を発する。
先般、「破産者マップ」と称するウェブサイトが公開された(現在は閉鎖されている)。このサイトは、過去に破産手続開始の決定及び再生手続開始の決定等(以下、併せて「破産手続開始の決定等」という)を受け、官報に掲載された方々の住所、氏名等の個人情報を、Googleマップ上にピンと呼ばれるしるしをつける形で表示させ、破産手続開始の決定等を受けたことが容易かつ効果的に確認できるというものであった。
法が、破産手続開始決定を受けたことを官報に公告する趣旨は、「債権者その他多数の利害関係人に大きな影響を与えるため、関係人に破産者について破産手続開始の決定がなされた事実を知らしめ、権利行使の機会を与え、第三者が不測の損害を受けることを防止する点にある」(全国倒産処理弁護士ネットワーク編『注釈破産法(上)』231頁)とされる。決して、破産の事実を広く一般に公開するためにされるものではない。
そして、過去に破産手続開始の決定等を受けたという事実は、これを経験した方々にとって他人に知られたくない情報である。たとえ一度公告されている情報だとしても、法が想定している、破産手続開始の決定がされた事実を知らしめ、権利行使の機会を与え、第三者の不測の損害を防止するという目的を超え、官報に掲載された情報をデータベース化し不特定多数の者が容易かつ効果的に閲覧できる状態にする行為は、引用元とは独立した別個の表現行為にあたり、当該サイトに掲載された方々の社会的評価を低下させ名誉を棄損する行為であり、憲法が保障すると解されるプライバシー権を侵害するものである。
また、破産法は、その目的を「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る」(第1条)ことであると定めているところ、当該サイトをインターネット上に公開する行為は、そこに掲載された方々を不安に陥れ、破産手続等によって取り戻した生活を破壊するものである。さらに、今後、これらの手続を必要とする方々の再出発を躊躇させかねず、法の趣旨に反する行為にほかならない。
以上のとおり、「破産者マップ」のようなウェブサイトをインターネット上に公開する行為は、掲載された方々の人権を侵害し、生活の再建を阻害するものであり、当協議会はこのような行為を到底容認できない。二度と同様の事態が起こらないよう、毅然とした対応を続けていくとともに、掲載された方々の不安に寄り添い、支援に取り組んでいくことを表明する。
そして、破産や民事再生といった法的手続が、今後も債務者の経済生活の再生の機会として十分に機能し、必要とする方々が安心して手続きを行うことができるように、官報公告の在り方や、そこに掲載された情報の取り扱い等に関する環境整備に取り組んでいく所存である。
以上