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意見書・会長声明等

日本学術会議法案に反対し、廃案を求める会長声明

2025.06.05
会長声明

日本学術会議法案に反対し、廃案を求める会長声明

全国青年司法書士協議会
会長 加藤圭

1 政府は、国の特別機関である日本学術会議を廃止し、特殊法人を新設する「日本学術会議法案」(以下「本法案」という)を国会に提出し、本法案は、本年5月13日に衆議院本会議で可決され、参議院に送付された。しかし、本法案が成立することによって、日本学術会議は、自律性・独立性を不可逆的に失う懸念があり、憲法が保障する学問の自由が脅かされ、ひいては民主主義の根幹を揺るがしかねない看過し難い問題があるため、当協議会は、本法案に反対の立場を表明し、廃案を求める。

2 日本学術会議は、学術が政治権力に従属し、過去の戦争に動員された痛切な反省の下に設立された学術組織であり、活動の自律性・独立性を具体化するものとして、根拠法に職務の独立性が明文化され(現行法3条)、科学者の自律的な組織としての活動を行ってきた。しかし、本法案は、日本学術会議の基本理念を明記した前文、そして職務の独立の文言が削除され、政府が組織の活動及び運営に介入できる仕組みが多重に盛り込まれており、日本学術会議の原点を否定するものである。すなわち、内閣総理大臣が会員以外の者から任命する業務監査権を持ち、再任に制限のない監事(19条、20条、23条)が置かれ、外部から選任される委員で組織される運営助言委員会(委員の資格は「組織の経営に関し、広い経験と高い識見を有するもの」で足りる)が中期的な活動計画及び年度計画、新法人の業績に関する自己点検評価書の作成並びに予算の策定等に意見を述べることが可能になり(27条1項、36条3項)、内閣総理大臣に役員の解任権が付与され(24条)、内閣府に設置される評価委員会(51条)は、内閣総理大臣が委員を任命し、中期的な活動計画の策定に関与し、活動を評価することになる。これらの規定により、政府の関与が強まることになり、日本学術会議の自律性・独立性は著しく損なわれる。

3 会員の選考方法については、会員以外の者から任命される選定助言委員会が会員候補者選定委員会による会員の選定に関与し(26条1項1号及び2号、31条4項)、会員候補者選定委員会は、会員以外にも、「大学、研究機関、学会、経済団体その他の民間の団体等の多様な関係者から推薦を求めることその他の幅広い候補者を得るために必要な措置を講じなければならない」とされ(30条2項)、さらには、選定助言委員会の委員は、「学術に関する研究の動向及びこれを取り巻く内外の社会経済情勢又は産業若しくは国民生活における学術に関する研究成果の活用の状況に関し広い経験と高い識見を有するもののうちから」選任されるとあり、研究そのものに関する知見は問われない。
 本法案は、上述のとおり、会員人事の自律性を奪う規定が盛り込まれている。
 さらには、特殊法人発足に際する会員の選考は、候補者選考委員会が行うこととされているところ、選考には内閣総理大臣が指定する有識者との協議が行われることになり(附則6条5項)、新法人の会員の選考に政府が関与することとなり、特殊法人発足時に既に会員である者については、経過措置として承継会員とされるものの、2029年9月30日までの任期とされ、再任されることはない(附則11条)。
 これらの規定により、諸外国の多くのアカデミーが採用しているコ・オプテーション方式による選考が損なわれ、これまでの学術会議との連続性が遮断される可能性が高い。

4 日本学術会議の特殊法人化に伴い、財政措置は補助金とされ(48条1項)、ナショナル・アカデミーとしての国家財政支出による安定した財政基盤の維持が困難になることが危惧される。また、補助金とされることにより、前述の中期的な活動計画及び評価委員会を通して政府方針の影響が高まることが懸念されるとともに、財源の多様化により、組織の運営面、活動面における特定の資金提供者が及ぼす影響が強まることが懸念される。

5 当協議会は、2020年10月14日「政府による日本学術会議会員の任命拒否の撤回および会員候補者全員の速やかな任命を求める会長声明」を発出し、当時の菅義偉内閣総理大臣が日本学術会議の105名の会員の推薦に対し、6名を任命から除外した問題の是正を求めているところ、現在に至るまで任命から除外された会員の任命はなされておらず、除外の理由も明らかにされていない。この状況下で法案審議を進めることは、任命拒否問題を日本学術会議の組織形態の問題にすり替え、問題を覆い隠す行為であると言わざるを得ない。
 そもそも、日本学術会議の現状の組織形態を変更して特殊法人とする必要性について、十分に説明されているとは言い難く、日本学術会議の独立性の強化や運営の透明性を特殊法人化の理由とするのであれば、現行法においてそれらを高める措置をとることも十分に可能であり、本法案の立法事実は不明確であり、法案審議の前提を欠くものである。

 本法案は、憲法が保障する学問の自由を脅かすものであるとともに、任命拒否の是正がなされず、その決定過程や根拠の説明もないまま現行の日本学術会議を廃止するものである。よって、当協議会は、本法案に反対し、廃案を求めるものである。