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意見書・会長声明等

⼾籍法施⾏規則の⼀部を改正する省令案に対する意⾒

2025.12.04
パブリックコメント

⼾籍法施⾏規則の⼀部を改正する省令案に対する意⾒

全国⻘年司法書⼠協議会
会⻑ 加藤 圭

       戸籍法施行規則の一部を改正する省令案に対する意見

当協議会は、標記について、次のとおり意⾒を申し述べる。

1.離婚当事者が親権者の定めをしたときは、離婚後も共同で親権を行使すること又は単独で親権を行使することの意味を理解し、真意に基づいて合意したことを確認するチェック欄及び合意した旨の記載事項を追加することについて
【意見】
 本記載事項の追加に反対である。よって、省令案の記載は削除するべきである。
【理由】
 前提として、離婚届書は当事者の真意に基づいて記載される必要があり、その意思が欠ける場合には離婚届自体の有効性が問題となる。とりわけ、共同親権又は単独親権についての記載事項を追加し、その理解を確認する項目を設けても、真意の確認にはつながらず、不自然であると考える。当事者にとっては、届出が受理されるために、合意の有無に関わらず記載する(チェックを付ける)だけに過ぎないためである。
 むしろ、本記載事項を追加することで弊害が生じうる点に鑑みるべきである。例えば、チェックを付けて届出がされたにもかかわらず、実際は真意に基づく合意がされていなかった場合、後にその合意の有無、共同親権又は単独親権の選択に関して争いとなった際に、本記載事項の存在が一方の主張に不利益をもたらすなど、紛争の原因になりかねない。
 なお、令和6年5月17日成立の民法等の一部を改正する法律の附則第19条第1項において、「政府は、施行日までに、父母が協議上の離婚をする場合における新民法第八百十九条第一項の規定による親権者の定めが父母の双方の真意に出たものであることを確認するための措置について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。」とされているが、本省令案によって実現するものにはなり得ない。父母の真意によるものかどうかについては、届書の形式的な変更以外の方法で確認する必要がある。

2.親子交流・監護の分掌の取決めの有無を尋ねるチェック欄及び取決めをしているときはその取決めが公正証書によるものかどうかの別の記載事項の追加について
【意見】
① 親子交流の取決めの有無の説明事項に、「親子交流を行わないと取決めた場合も「親子交流について取決めをしている。」にチェックを付けてください」との記載にすべきである。
② 親子交流の取決めの有無の説明事項「未成年の子と離れて暮らしている親が子と定期的、継続的に、会って話をしたり(以下略)」との記載を「未成年の子が、離れて暮らしている親と定期的、継続的に、会って話をしたり(以下略)」との記載に改めるべきである。
③ 親子交流の取決めの有無に関する項目において、取決めを行っている世帯のその頻度等を聞き取るべきである。
【理由】
① 親子交流について、離婚にあたって親子交流を行わない取決めを行う場合もありうるが、変更案においては、そうした説明が抜け落ちている。
② 親子交流については、子育てに関わる親の権利及び義務であると同時に、親の養育を受ける子の権利でもあること、そして両者の利益が対立する場合には、子の利益が優先されるという考えから、主語を子として表記すべきと考える。又は、「未成年の子と離れて暮らしている親と子が定期的、継続的に、会って話をしたり(以下略)」と親と子を並列にすべきと考える。
③ 親子交流に関する統計等は十分でない。当該取決めにつき直接尋ねる機会は少なく、届出の機会は貴重であるため、聴取すべきと考える。なお、附録第13号様式への記載になじまないことから、任意的記載事項として聴取すべきと考える(後述のその他⑵の意見記載のとおり)。

3.養育費の分担の取決めの有無を尋ねるチェック欄及びその取決めが公正証書によるものかどうかの別の記載事項の追加について
【意見】
①養育費の分担について取決めをしている場合のその額を記載する欄を新たに設け、②法定養育費の説明をより踏み込んだものとしたうえで、③養育費債権に付与される先取特権の説明を加え、④養育費の説明を再考するべきである。
【理由】
 民法第766条第1項及び第2項は、子の監護について要する費用の分担(いわゆる養育費)は、父母の協議を優先し、協議不能の場合には家庭裁判所の手続によりこれを定めることとされている。
 ところで、厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、養育費の取決め状況は、「取決めをしている」が母子世帯で46.7%、父子世帯で28.3%、養育費の受給状況は、「現在も受けている」が母子世帯で28.1%、父子世帯で8.7%とされている。
 これらの実情を踏まえ、民法第766条の3は、子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例(いわゆる法定養育費)を定め、本件戸籍法施行規則改正により離婚届の様式の改定に至ったものと推察することができる。
 ところが、養育費の取決めに関する項目には、養育費の分担について取決めをしている場合のその額を記載する欄が存在していない。ここで養育費の分担について取決めをしている場合にその額を記載することで、離婚後に養育費にかかる裁判外紛争解決手続や家庭裁判所における家事調停又は家事審判の手続の必要が生じた場合の書証となりうることが期待できる。
 また、法定養育費の説明は、「※取決めをしていなくても暫定的に養育費を請求することができる制度があります。法務省のウェブサイト等をご覧ください。」にとどまり、離婚届の様式の中には、いわゆる養育費債権に付与される先取特権についての言及はなされていない。養育費の権利を有していてもこれを実現できる制度の説明がないのは不親切であると評価せざるを得ない。また、養育費の説明は、「養育費:経済的に自立していない子(例えば、アルバイト等による収入があっても該当する場合があります)の衣食住に必要な経費、教育費、医療費など。」とされているが、「経費」とする表現は養育費の支払義務者の立場からすればその支払いを限定的に解するのが通常であると考えられる。ここを起点に、全体として養育費の支払いを限定的に解する義務者に、列挙された教育費、医療費以外の費用(お小遣い、平均的な娯楽費など)は養育費の範囲に含まれないかのような解釈を促す説明となっている。
 離婚を契機として養育費が受け取れず、健康で文化的な最低限度の生活水準を維持できない国民が相当多数存在することは、上記の統計から明白であり、協議による離婚を認める以上、一定程度の積極的な国家による養育費への介入が求められる。
 したがって、これらを具現化するものとして、①養育費の分担について取決めをしている場合にその額を記載する記載欄を設けること、②法定養育費についての説明として「※取決めをしていなくても暫定的に養育費を子1人当たり月額2万円請求することができる制度があります。法務省のウェブサイト等をご覧ください。」と金額まで明示すること、加えて、③養育費債権に付与される先取特権の説明として、「養育費に付与された優先権(先取特権)により子1人当たり月額8万円まで債務名義がなくても差押え可能となる制度があります。法務省のウェブサイト等をご覧ください。」とする説明を新設し、④養育費の説明を「経済的に自立していない子とその監護者が安定した生活を営むのに必要な費用の一部」等とすることを検討されたい。

4.その他
【意見】
⑴ 婚姻及び離婚届の証人欄の必要性について検討すべきである。
⑵ 離婚手続に関する情報提供サイトの紹介をQRコード付で記載しておくべきである。
【理由】
⑴ 婚姻届及び離婚届においては、戸籍法第33条に基づき、証人欄が設けられており、証人2名以上の出生の年月日、住所及び本籍を記載して署名する必要がある。
 この趣旨は「婚姻、離婚等のように届出によって効力を生じる重要な身分行為については、届出意思について信憑性を高める趣旨に他ならない」とされている。
 本来であれば、婚姻及び離婚は当事者の合意のみで成立すべきものにも関わらず、届出書に証人欄が存在することで、婚姻及び離婚手続きについて、公的機関以外の第三者の関与を当事者に義務付けていることになる。
 その結果、当事者に対して、証人を探すための余分な労力を強いることになっている。
 仮に、届出意思について信憑性を高めることを理由として、証人欄を認めたとしても、証人に対して本籍地まで記載させることは、プライバシーの観点から不要であると考える。
 以上の点から、婚姻届及び離婚届における証人欄の必要性について、検討すべきである。
⑵ 現行の離婚届においては、附録第13号様式の他、欄外に養育費の解説動画や、離婚に際して検討すべき事由についてのポータルサイトの紹介、法務省作成「こどもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」の紹介等についてアクセス用QRコードと共に掲載している。
 当事者が、離婚に際して把握しておくべき情報に迷うことなくアクセスできることは、円滑な離婚手続を進めていく上で、必要不可欠なことである。新たに、離婚後の子どもの子育てについての取決めなど追加となった情報もあり、また面会交流は親子交流と名称が変わっている。
 本改正により、届出様式も変更となるが、上記内容については新様式となった後も継続して記載していくべきであるし、新たな情報にも適切にアクセスできるよう措置をすべきである。