【表紙】 身近な法律ハンドブック これから社会へ出る皆さんへ。 全国青年司法書士協議会 【このテキストデータについて】 1 この冊子には、すべての漢字にルビが付けられていますが、テキストデータでは省略しています。 2 イラストのうち、本文をイメージ化したものは説明を省略しています。また、説明を付け加えている箇所は、亀甲括弧でくくり、始まりを「説明」、終わりを「説明、終わり。」としています。 3 クイズとクイズの答えは、冊子ではページが分かれていますが、テキストデータでは続けて記載しています。またクイズと答えの間に、「ここで一旦、考えてみましょう。」と付け加えています。 4 必要に応じて、記号などをほかの文言に置き換えたり、省略することで、再生上の配慮をしています。 1ページ はじめに 私が小学生の頃、「法律」とは遠い世界のことでした。 テレビドラマやニュースで聞く言葉、本屋で背の届かないところにある難しそうな本、そして小学校近くにある赤いレンガの裁判所。 でも、大人になって知りました。 働くことにも、住むことにも、遊ぶことにも、買い物や外食、旅行にも、全て社会はいろんなことに「法律」が関わっていることを。 これから社会へ出る皆さんへ伝えたいこと――。 それは、社会という大海原を進んでいく皆さんに知ってほしい最低限の「法律知識」です。 「法律知識」は、決して難しいことではありません。 この小さなハンドブックでは、契約やお金にまつわるルールや仕組み、トラブルの解決方法、生活を支え、困ったときには利用できる制度など、身近な「法律」の知識を取り上げました。 皆さんが社会に出て「法律」に出会うことがあったら、一度立ち止まり、このハンドブックを読んでみてください。 「法律」を知ることは、これからの人生を歩む上できっと役に立つはずです。 私たち全国青年司法書士協議会と一緒に、楽しく「法律」を学びましょう! 2ページ 目次 第1章 契約いろいろ この契約って大丈夫?契約でおかしいと思ったら 3ページ 1 「契約」ってなに? 3ページ 2 契約の「取消し」 5ページ 3 クーリングオフの方法 7ページ 第2章 お金について お金ってどうやって使ったらいいのだろう、知っておくべきこと 9ページ 1 一人暮らしとお金の管理 9ページ 2 クレジットと借金について学ぼう 11ページ 3 いろいろな支払方法 14ページ 4 奨学金 14ページ 第3章 労働法について 店長(上司)からこんなことを言われちゃった。守らないといけないの? 15ページ 第4章 インターネット・SNSトラブル インターネットって楽しいけど気を付けないといけないことは何だろう 19ページ 1 被害者にならないために 20ページ 2 加害者にならないために 21ページ 第5章 生活を支える様々な制度 病気・ケガ・失業など困った時に頼れる制度はないのかな? 23ページ 1 社会保険制度 23ページ 2 生活支援制度 25ページ 第6章 もしトラブルにあったら 困ったことがあったときはどこに相談したらいいのだろう 28ページ 1 身近なトラブル 28ページ 2 困った時にはまずは「相談」しましょう 29ページ 3ページ 第1章 契約いろいろ 世の中には、いろいろな契約があります。 この章では、生活に深く関わってくる「契約」について、考えてみましょう。 1 「契約」ってなに? 「契約」は、一言でいうと「法的な約束ごと」です。買物をするのも、アパートを借りるのも、友人に物をあげる約束をするのも、全て「契約」です。 契約とは「約束」をすること 申込み(これをください)+承諾(かしこまりました)=双方の合意により契約成立 ・契約の身近な具体例 書店で本を買う スマートフォン利用の契約をする 友達に腕時計をあげる約束をする レストランで外食する 部屋を借りる 音楽をダウンロードする 4ページ ・契約の方式は自由です。 口約束でも契約は成立します。 契約書は、「契約内容を正確に残すため」に作るものです。 契約書に印鑑がなくても契約は成立しています。 双方の合意で契約成立 口約束でもOK! ・契約を結ぶことは個人の自由です。 契約は、他人から強制されるものではありません。 契約の相手を選ぶのは自由です。 契約の内容も自由に決められます。 ※ただし、人を殺す契約など法律に違反する契約は無効です。 ・契約の内容に責任が生まれます。 契約は、双方の合意で成立します。 契約が成立すると、契約内容について権利と義務が生じます。 一方的な理由で契約を解除することは原則としてできません。 〔お客〕 義務:代金を支払う 権利:商品を受け取る 〔店員〕 義務:商品を渡す 権利:代金を受け取る ・クイズ あなたが買い物をしたときに「売買契約」はいつ成立したでしょうか? ① あなたが「これください」、店員が「かしこまりました」とやりとりをしたとき。 ② あなたが代金を支払ったとき。 ③ あなたが商品を受け取ったとき。 (ここで一旦、考えてみましょう。) ・答え ① 5ページ 2 契約の「取消し」 契約はお互いの合意の上に成り立つ約束です。 いったん契約したら「守る義務」が生じます。 しかし、個人と事業者では、契約内容や商品に関する情報量や交渉力に大きな違いがあるので、その両者の間の契約については、契約後に無条件で契約の取消し(クーリングオフなど)ができる場合もあります。 ■取消しできる例 ・未成年者が、親権者(法定代理人)などの同意をもらわずに結んだ契約 〔ポイント〕 未成年でも次の場合は取消しができません。 ①こづかいなどを使って契約した場合 ②相手に成年者であると信じさせて契約した場合 ・だまされたり、脅されたりして結んだ契約 次に挙げるような悪質商法にあった場合、契約の申込みの撤回や契約の解除ができます。 ■悪質商法の例 悪質業者は、初めから「契約」を目的だと言うと警戒されたり断られたりするので、本当の目的を隠して様々な方法で誘ってきます。 ・デート商法・ロマンス詐欺 マッチングアプリや交流サイトやSNSなど、偶然を装って近づいてきた異性と何度かやり取りするうち、高額な商品を契約させられてしまい、その後相手とは連絡が取れなくなってしまいます。 6ページ ・キャッチセールス 駅や繁華街の路上でアンケート調査などと称して呼び止め、喫茶店や営業所に連れて行き、契約に応じるまで解放せず、帰りづらい雰囲気にして商品やサービスの契約をさせます。 ・催眠(SF)商法 「くじに当たった」「新商品を紹介する」と言って人を集め、閉め切った会場で台所用品などを無料で配り、得した気分にさせ興奮状態にしておいて、異様な雰囲気の中で最後に高額な商品を売りつけます。 ・マルチ商法 友達などを誘えば儲かるからと商品の販売組織に誘い、商品を購入させ、友人など次々に組織への加入者を増やしていくと利益が得られるというもの。勧誘時の成功話と違って思うように加入者を獲得できず、売れない商品を抱えることになります。 ・訪問買取商法 「いらないものを買い取ります」などと言って業者が突然訪問してきて、十分な説明もせずに宝石や指輪などの貴金属や、売るつもりのない品物まで、安い値段で強引に買い取ります。 〔ポイント〕 悪質業者は、相手にしてしまうと、しつこくされたり、脅されたりするのでキッパリ断ること。甘い言葉やうまい話は信用しないことが大切です。 7ページ 3 クーリングオフの方法 クーリングオフとは、一定の契約に限り、いったん契約した場合でも一定期間内は理由を問わず無条件で、申込みの撤回や契約の解除ができる制度です。解除すると、その契約は初めからなかったことになります。 ■クーリングオフができる期間 ・8日間 訪問販売:キャッチセールス、アポイントメントセールスなど 電話勧誘販売:事業者からの電話で勧誘を受けて申込をした契約 特定継続的役務提供:エステ、美容医療、語学学校、家庭教師などの紹介サービス 訪問購入:業者が自宅などを訪ねて商品の買取をする契約 ・20日間 マルチ商法 業務提供誘引販売:内職、モニター商法 契約日を含めて、この期間内に書面を出し、郵便局の消印が押されていれば、クーリングオフをすることができます。 ■クーリングオフの方法 ハガキなどの書面を用意します。 その契約をやめたい旨を書いて両面のコピーをとります。 郵便局の窓口で、「特定記録郵便」か「書留」で販売会社に出します。クレジットで購入した場合はクレジット会社にも同時に出します。 窓口で「特定記録郵便受領書」をもらいます。 この受領書とハガキのコピーがクーリングオフしたという証明になります。 メールなどで通知することも可能です。 支払ったお金は全額返金され、違約金なども請求されません。商品を受け取っている場合は、商品引取料金は業者負担です。 8ページ ■ハガキの記載例 ・表面 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 ○○御中 ・裏面(販売会社へ契約をやめたい旨を書く) 契約解除通知書 契約日 ○○年○○月○○日 商品名 ○○ 契約金額 ○○円 会社名 ○○会社 担当者名 ○○ 上記日付の契約は解除します。 なお、速やかに商品の引き取り、支払済み○○円の返金手続きを行って下さい。 ○○年○○月○○日 (契約者)住所 氏名 ・裏面(クレジットで購入した場合は販売会社と同時にクレジット会社にも出す) 契約解除通知書 契約日 ○○年○○月○○日 商品名 ○○ 契約金額 ○○円 会社名 ○○会社 担当者名 ○○ クレジット会社名 ○○会社 上記日付の契約は解除します。 ○○年○○月○○日 (契約者)住所 氏名 〔説明〕 郵便局の窓口で、手続きをしているイラストです。 差出人:書留でお願いします。 郵便局員:書留ですね。受領書をお渡しします。 〔説明、終わり。〕 〔ポイント〕 クーリングオフのハガキを出すとともに司法書士・弁護士などにご相談ください。 9ページ 第2章 お金について お金の使い方を学ぶことは、社会人としての大切な第一歩です。 この章では、身近なお給料の仕組み、やりくりのコツ、「借金」の利息や保証人についてなど、お金にまつわる基本的な知識を身につけましょう。 1 一人暮らしとお金の管理 一人暮らしをするのには、どのくらいお金がかかるのでしょうか。 住むところを借りるための費用、家具・家電をそろえるための費用、そして日用品や食費、光熱費といった毎日の生活費など、まずは必要な支出を知ることから始めましょう。 ・住むところを借りるときのお金 保証金(敷金)(家賃1~2ヵ月) 礼金(家賃1~2ヵ月) 不動産業者への手数料 ・生活に必要なものをそろえるお金 家具 家電 ふとん 調理器具 食器 そうじ道具など ・毎日の生活費 家賃 光熱費 食費 日用品 電話代など ■お金の使い方を考えてみよう 仕事を始めてお給料をもらったら、欲しいものを買ったり、やりたかったことに挑戦したり…。 でも、お金の使い方は慎重に!次のお給料日まで困らないよう、上手なやりくりを考えてみましょう。 【15万円の給料の場合】 税・保険料など:控除(天引)12,000円 手取り138,000円 生活に必要なお金110,000円:家賃・光熱費・電話代・食費・日用品費 自由に使えるお金28,000円:レジャー・ショッピング・貯金・クレジットの返済など 10ページ ■家計簿をつけてみよう ・収入と支出を把握しよう 一人暮らしをはじめたら、まず、家計簿をつけてみましょう! 毎日の生活費を記録することで、何にどのくらいお金が必要か分かります。 1か月つけたら、1か月の合計額を出します。だんだんとコツが分かってきたら、貯金の目標額を決めて、少しずつ貯金をしましょう!貯金をして、欲しいものを買ったり、急にお金が必要になったりしたときのために準備をしましょう。 ■お金の流れを考えながら家計簿をつけてみよう ・月のお金の流れ(例) 〔説明〕 給料日から次の給料日までに支出する項目が書かれています。 〔説明、終わり。〕 収入(給料日) 支出(家賃、食品、光熱費、消耗品、電話代、外食、洋服、クレジットの返済、貯金) ※必ず貯金しよう 収入(給料日) ・家計簿 〔説明〕 家計簿をつける練習をしてみましょう。 4月27日の家計簿です。 収入と支出の項目について、明細と金額を記入する欄があります。 一部にのみ、明細と金額が書かれています。 収入の項目には、繰越と入金があります。 繰越の項目には、明細が前日残高、金額は2,000円と書かれています。 入金の項目には、明細が全青司銀行より引出、金額は80,000円と書かれています。 収入の合計金額は82,000円です。 支出の項目には食費、住居費、水道光熱費、通信費、保険料、趣味娯楽、被服費、交際費、日用品・雑貨、その他、貯蓄があります。 日用品・雑貨の項目には明細がシャンプー、金額は380円と書かれています。 貯蓄の項目には明細が積立貯金、金額は5,000円と書かれています。 支出の合計金額欄は空欄になっています。 残高(収入-支出)欄は空欄になっています。 〔説明、終わり。〕 ※上の表に書き入れてみよう 次の支出はどの欄に書くべきでしょうか?明細と金額を書き入れてください。 家賃 50,000円 くつした 800円 タマネギ・ニンジン 670円 支出合計と残高も書き入れてみましょう。 いったん止めて考えてみましょう。 ・答え 食費 タマネギ・ニンジン 670円 住居費 家賃 50,000円 被服費 くつした 800円 支出合計 56,850円 残高 25,150円 〔ポイント〕 自動車やバイク・自転車を所有したら 自動車やバイク・自転車を所有したら保険に入りましょう。万が一の事故の時にお金が出るように備えておくことをおすすめします。 11ページ 2 クレジットと借金について学ぼう ■クレジットについて クレジットは、カード会社に代金を立て替えてもらって先に商品を受け取り、後から分割や一括で代金を返済する方法で、借金の一種です。サインだけで簡単に商品が手に入るため、借金であることを忘れないように注意が必要です。 ・クレジットカードの仕組み 〔説明〕 購入者、加盟店、カード会社の関係が、矢印で示されています。それぞれの関係は次の通りです。 購入者は加盟店から商品・サービスを受け取り、カード会社から交付されたカードで決済します。 商品代金はカード会社から加盟店に支払われますが、その代わりに加盟店はカード会社に手数料を支払います。 購入者は、商品代金を後払いします。(※支払い回数によっては手数料発生) 〔説明、終わり。〕 ・クレジットカードでリボ払いにするとどうなる? 客:ショッピングにて「どれもステキ…」 店員:「お似合いですよー、ぜひ!」(50万円の商品) 客:「でも値段が…」 店員:「リボ払いなら毎月の支払が1万円でも大丈夫ですよ。」 客:「じゃあ買っちゃう!」 ・クイズ リボ払い(年利18%、月額1万円)で50万円のバッグを買うと、総支払額はいくら? ① 約60万円 ② 約70万円 ③ 約84万円 ④ 約94万円 (ここで一旦、考えてみましょう。) ・答え ④ 約94万円 支払い期間は7年10か月 利息・手数料 約431,118円 すごく高い… 12ページ ■借金について 世の中には、お金を貸し出すことをビジネスにしている会社があり、返済のときに高い利息を取るというところもあります。利用しないように気をつけましょう。 〔ポイント〕 どうしても生活に困ったときは、「借金」をする前に、23~27ページで紹介している生活支援制度の利用を考えてみましょう。 ■借金が多額になったら 自分の収入の範囲内で生活するのが一番です。借入れは、しない方がいいでしょう。 それでも、もし借金が多額になったら、近くの司法書士や弁護士などの法律専門家に相談してください。必ず解決方法があります。 ・相談する時には ①自分の収入と生活費 ②借入先、借入の時期・期間・金額 ③返済が困難になった理由 ありのままに話しましょう。一人で問題を抱えないで、ぜひ相談してください。 ■しっかり度 心理チェック 作成者:広島修道大学 教授 柏木信一 当てはまるものにチェックをしてください。 ・頼まれたら断れない、お人好しな方だ。 ・誰にも相談せず、自分の中に背負い込みがちだ。 ・世間知らず、または無知だと思う。 ・カッコいい人・かわいい人に疑いなく気を許す。 ・信じやすい、あるいは信仰深い方だ。 ・先行き不安に思うことがある。 ・寂しがり屋だ。 ・楽して得したいと思う。 ・人任せだ。 ・無頓着だ。例:片付けをしない、面倒くさがり。 ・自信過剰な所がある。 ※チェックが多いほど、消費者トラブルにあう危険度が高い傾向にあります。逆に全くチェックがない人も要注意! 13ページ ・保証人について 「保証人」とは、借主が借金などを返さない場合に借主の代わりにその支払をすることを約束した人のことです。 たとえば、金融業者からお金を借りようとする友人に「絶対に迷惑をかけない」と頼まれて保証人になった場合、後日その金融業者から「借主が約束どおりにお金を返さないので、代わりに支払ってください」と請求されれば、あなたが友人の代わりに支払をしなければなりません。 つまり、他人の保証人になるのは、自分がお金を借りるのと同じです。ですから、簡単に他人の保証人になったり、他人に自分の保証人になってほしいと頼んだりするのは、やめましょう。 ・契約時 Aさんに、お金を貸します。 主な契約は2つ ①貸主(金融業者)からAさん(借主):お金を貸す ②Aさん(借主)から貸主(金融業者):返済 Bさん(連帯保証人)と貸主(金融業者):連帯保証契約 ・借主が返済しないと Aさん(借主)から貸主(金融業者):返済できなくなりました。 貸主(金融業者)→Aさんの代わりにBさんが払ってください。 貸主(金融業者)からBさん(連帯保証人):請求 Bさん(連帯保証人)から貸主(金融業者):返済義務 14ページ 3 いろいろな支払方法 現在では、現金を使わないキャッシュレス決済が多くなりました。 ・お金の支払い時期による分け方 前払い(事前に払う):プリペイドカード(利息が付かない) 即時払い:デビットカード(利息が付かない) 後払い:クレジットカード(利息が付く場合がある) ・その他の支払い方法 コンビニ払い:請求書が商品と一緒に届き、コンビニで支払う 代引き:商品と引き換えにお金と代引き手数料を支払う 振り込み:銀行やインターネットバンキングから支払う 電子マネー:交通系ICカードやバーコードで支払う ※最近では、様々な支払方法をスマホ上で行うことができるようになってきています。 4 奨学金 奨学金とは、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)や民間団体などが、経済的な理由で進学できない学生に支援する資金のことです。返済不要の「支給型」と、卒業後に返済する「貸付型」の2種類に分かれ、貸与団体や型によって金額や貸与条件などが変わってきます。政府は、子育て支援などの観点から、支援の対象を拡大しています。支援の制度が変わる場合があるので注意が必要です。 ・支給型奨学金について ①JASSOは、低所得世帯向けに支給型奨学金を拡大しています。 ②赤い羽根福祉基金や大学・短期大学の一部が、児童養護施設出身者向けの給付型奨学金を用意しています。 ・貸与型奨学金について ①災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合は、返還期限の猶予を願い出ることができます。 ②障害により返済不可能となった場合や特に優れた業績による免除制度があります。 15ページ 第3章 労働法について 皆さんは、これから社会人としての第一歩を踏み出します。 「働く」ことも法律によって守られています。 この章では、働くことについての法律「労働法」について解説します。 Q1 労働法って何ですか? A1 「働く人」と「雇う人」の間の法律のことです。 会社で人が働く場合、働き手を「労働者」といい、働かせる側を「使用者」といいます。労働者と使用者との間には、経済的・社会的に力の格差があります。そこで、労働者が使用者に都合よく使われてしまわないように、労働基準法、労働契約法、パート労働法などの様々な法律によって、労働者を保護しています。このような労働者と使用者との間を規律する様々な法律のことをまとめて「労働法」と呼んでいます。 Q2 労働法で保護されるのは、どんな人ですか? A2 雇われている全ての働く人です。 労働法により保護される労働者は、会社に勤める人、工場で働く人、お店の販売員、看護士、教師、整備士など、業種・職種を問わず、全ての働き手です。いわゆる正社員のほか、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなど、会社内での呼び方にかかわりません。 16ページ Q3 労働法では、賃金についてどんな決まりがありますか? A3 5つの大事なルールがあります。 1 通貨(現金)払いの原則 賃金は、通貨(現金)で支払われます。銀行口座への振込(デジタル払いを含む)については、労働者の同意が必要です。 賞与(ボーナス)を除いて、会社の商品などの現物によって代えることはできません。 2 直接払いの原則 賃金は、労働者本人に支払われます。 労働者が未成年であったとしても、本人の同意なく親や親族が受け取ることはできません。 3 全額払いの原則 賃金は、労働者に全額を支払う必要があります。 所得税の源泉徴収や社会保険料・雇用保険料などは例外として控除(天引き)されます。 例えば、労働者がミスをしたからといって、その損害額を天引きするということはできません。 4 毎月1回以上払いの原則 賃金の支払いは、毎月1日から末日までの間に1回以上と決まっています。 例えば、「今月分は来月に2か月分まとめて支払う」ということは認められません。 5 一定期日払いの原則 賃金の支払いは、毎月、一定の期日(25日や末日といった確定した日)と決まっています。 「毎月20~25日の間」や「毎月第4金曜日」などの変動する期日にすることは認められません。ただし、臨時の賃金や賞与(ボーナス)は例外です。 17ページ Q4 労働時間の長さや休日の取り方について教えてください。 A4 労働法により、一定の労働時間と休日が決められています。 労働基準法は、休憩時間を除いて、1週間に40時間・1日に8時間を超えて労働させてはならないと決めています。これを超えて労働させる場合には、会社が労働者の過半数(又は労働組合)との間で書面による取決めをして、労働基準監督署に届出をする必要があるほか、割増賃金(25%増し)を支払う必要があります。 また、会社は、労働者に対し、休日を1週間について少なくとも1日与えること、1日の労働時間が6時間を超える場合には休憩時間を労働時間の途中に与えることが義務付けられています。 ・法定労働時間(1日8時間、週40時間) 9時~12時、13時~18時(12時~13時休憩) ・割増賃金 18時以降  Q5 働きながら学びたいときは、どのような方法がありますか? A5 大学や専門学校の夜間部、通信講座、企業の教育訓練などもあります。 昼間は仕事をしながら、大学・短期大学、専門学校の夜間部に通うという方法があります。 夜間部の場合にも、昼間の学生と同様に卒業資格を取得できますし、入学金や授業料について公的な奨学金を利用することもできます。 また、通信制の大学や講座などもあり、その中には、一定の要件を満たすことで、雇用保険から助成金を受けられるものもあります。 ・奨学金制度については、14ページへ。 ・ハローワーク(公共職業安定所)とは? 全国500か所を超えるハローワークでは、仕事を探している人への仕事の紹介、幅広い仕事ができるよう技術を身に付けるための職業訓練の情報提供、仕事を辞めた後の失業保険の受取の手続などをしています。仕事を探したいとき、仕事を辞めたときなどには相談に行きましょう。ハローワークインターネットサービスも利用できます。 〔ポイント〕 勤め先が倒産したり、失業した場合の保険のこと(失業保険)や、仕事でケガをしたり、病気になった場合の保険のこと(労災保険)などについては25ページへ。 18ページ Q6 「ブラック企業」「ブラックバイト」って何ですか? A6 法律を守らず、働く人の権利を軽んじる企業やアルバイトのことです。 マスコミで報道される「ブラック企業」や「ブラックバイト」は、明確な基準はありませんが、労働法のルールを守らない企業のことを総称します。例えば、次のようなものです。 ①労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す。 ②残業代を支払わない、ハラスメント行為(下記参照)が横行するなど法律を守る意識が低い。 ③このような状況下で労働者に対し退職を促したり、反対に退職を妨げる。 会社に対して改善を求めるのが難しい場合には、労働基準監督署や都道府県労働局、労働組合などに相談しましょう。 ■ハラスメント行為の例 ・パワーハラスメント(パワハラ) 例えば、上司が同僚の目の前で必要以上に叱る、叩く・蹴るなどの攻撃をする、他の人の仕事を押しつけるなどの行為のことをいいます。 ・セクシュアルハラスメント(セクハラ) 例えば、職場や取引先でしつこく食事やデートに誘う、性的な発言をする、身体を触るなどの行為のことをいいます。 ・マタニティハラスメント(マタハラ) 例えば、妊娠や出産、育児休業の取得を理由に、「迷惑だ」と否定的な発言をする、仕事を辞めさせる、給料を減らすなどの行為のことをいいます。 〔ポイント〕 賃金、雇用形態、就業時間・保険や年金の加入状況などに注目しながら、実際に求人広告を見てみよう! 19ページ 第4章 インターネット・SNSトラブル インターネットやSNSを楽しく安全に使うためにどうしたらよいか、考えてみましょう。 インターネットは、スマートフォンなどから簡単につながり、世界中の情報に接することができるため、上手に使えばとても役立つ便利なものです。でも、使い方を間違えると、事件や犯罪に巻き込まれたり、個人情報を盗み取られて悪用されたり、詐欺の被害に遭う危険性もあります。 SNSや匿名掲示板などでは、誰でもどんな内容でも簡単に発信できてしまうため、残念ながら無責任で攻撃的な内容のものもよく見られます。発信するときには、根拠のない噂話(デマ)を広めないよう、また、いじめ・差別・プライバシー侵害などの人権侵害の加害者とならないよう気を付けましょう。 一度インターネット上に発信された情報は、様々な人によりシェアされて世界中に広がっていく可能性があります。投稿やシェアをする前に、それが誰かの権利を侵害していないか、落ち着いてよく考えてみましょう。 20ページ 1 被害者にならないために ①現金プレゼント SNSなどの「現金プレゼント企画」に応募して口座情報などを提供したつもりが、その口座が詐欺などの犯罪(特殊詐欺の振込先など)に使われて、いつの間にか犯罪の実行犯にさせられてしまう事件が実際に発生しています。 よく知らない相手に対して安易に口座情報などを提供しないようにしましょう。 実際には個人情報を抜かれるなどしたうえ、現金はもらえない ②フィッシング詐欺 「フィッシング詐欺」とは、公的機関や有名企業を装ったメールやSMSに貼ったリンクから偽サイトに誘導し、口座番号・クレジットカード番号やログイン情報(ID・パスワード)などの情報をだまし取る詐欺のことです。情報を盗まれると、アカウントが乗っ取られて通販サイトで勝手に買物をされたり、お金を勝手に送金されたりする危険性があります。メールなどのリンクをクリックする前に公式サイトの情報を確認するようにしましょう。 ③偽サイト・詐欺サイト インターネットでの買物はとても便利ですが、中には正規のショッピングサイトに巧妙に似せた「偽サイト」や、最初から商品を売る気がなく代金をだまし取る目的の「詐欺サイト」が存在します。最近では、一見して本物と見分けがつかないほどに作り込まれたものも増えてきています。 その特徴としては、商品価格が極端に安い・サイト内の日本語が不自然・運営会社の連絡先の記載がない(連絡が取れない)などがあります。少しでも怪しいと感じたら取引をやめましょう。 21ページ ④リベンジポルノ 「リベンジポルノ」は、元交際相手などの性的な写真や動画を、嫌がらせ目的でインターネットなどを通じて不特定多数に配布・公開する行為で、犯罪です。一度インターネット上に公開された画像などは、不特定多数の人がダウンロードして複製する可能性が高く、それら全ての回収・消去をするのは事実上不可能になってしまいます。 リベンジポルノの被害に遭わないためには、性的な写真や動画を「撮らない・撮らせない」「送信を求められても送らない」ことを徹底しましょう。また、もしリベンジポルノの被害に遭ってしまったら、すぐに警察に相談しましょう。 ・被害に遭ってしまった場合 被害の証拠(スクリーンショットなど)をできるだけ記録して、すぐに相談機関や警察に相談しましょう。 あやしいサイトにクレジットカードの情報を入力してしまったときは、すぐにカード発行会社に連絡してカードの使用を停止し、カードの再発行の手続をとりましょう。 SNS上で嫌がらせなどの迷惑行為を受け、相手方が迷惑行為を止めないときは、弁護士や司法書士に相談してみましょう。迷惑行為の発信者を特定した上で損害賠償請求や刑事告訴などの法的措置をすることができる場合があります。 2 加害者にならないために ①他人への攻撃、差別、デマを流す行為 SNSに限らず、誰かの人格を否定するような言動、差別的表現、事実無根のウソの情報(デマ)を流すといった行為は、してはいけません。身元を明かさずに参加できるSNSや匿名掲示板では、「どこの誰が言っているかバレないだろう」という意識や「たくさんアクセス数を稼ぎたい」という欲求から、他人への攻撃的・差別的発言、デマの発信が過激化しがちです。SNSなどへの投稿の前には、内容が人格の否定やデマ・差別になっていないか、よく考えましょう。 22ページ ②著作権侵害・二次利用・違法ダウンロード 他人の著作物(人間により創作的に表現されたもの。絵画・映像・音楽・文章・ソフトウェアなど)を使うときは、作者などの著作権を侵害しないよう配慮しなければなりません。そのため、インターネット上に他人の著作物を掲載する場合には、一定の場合を除き、作者などの許可を得る必要があります。 二次利用(既存の著作物の引用・転載・コピーなど)についても同様です。フリー素材のように一定の二次利用が利用条件の中で認められたものもありますが、それらについても利用条件に従って利用しましょう。 また、海賊版サイト(映画・マンガ・アニメなどのコンテンツを無許可で公開しているサイト)を不正なものと知って利用することも著作権の侵害であり違法です。コンテンツは正規の方法で楽しみましょう。 ③バイトテロ アルバイト先の職場での「いたずら・悪ふざけ」の様子などをSNSや動画共有サイトなどに投稿するのが「バイトテロ」です。たとえ仲間うちで盛り上がるためだったとしても、それが迷惑行為であれば「いたずら・悪ふざけ」では済まされません。職場のイメージを低下させるなどして損害を与えれば損害賠償請求に応じる必要が出てきますし、刑事事件の犯人として刑罰を科せられることもあります。 ④闇バイト 具体的な仕事内容を明示せず、一見簡単で好条件なアルバイト募集のように見せかけて、実は犯罪の実行者を募集するような投稿がインターネットの掲示板やSNSに掲載されています(いわゆる「闇バイト」)。闇バイトに応募した結果、強盗や詐欺といった犯罪の加害者として逮捕された人も多くいます。 闇バイトかどうかを見分けるには、その勧誘の特徴として「仕事内容が曖昧か、全く明示されていない(高額バイト・即日入金・楽な仕事・電話をかけるだけ・書類を受け取るだけ、など)」を知っておくことが大切です。また、一般的な職種の日給・時給を確認し、これを大きく上回る報酬が提示されている場合には闇バイトの可能性を疑うのも大切なことです。 23ページ 第5章 生活を支える様々な制度 病気やケガで働けなくなったとき、皆さんはどうしますか。 収入もなく貯金も減っていくと生活することも困難になります。 でも安心してください。そんな困った状態を、社会全体で負担しあい助け合うための制度があります。この章では、どんな制度があるのかご紹介します。 1 社会保険制度 「社会保険」とは、病気や事故や失業などのアクシデントや、高齢や障がいで働けなくなったときに備えて、同じ社会に生きる人たちがお金を出し合う仕組みのことです。 ・社会保険制度 社会保険:公的医療保険(健康保険)、公的年金(年金制度)、介護保険 労働保険:雇用保険、労災保険 ・公的医療保険(健康保険) 窓口:市区町村役場、会社 公的医療保険、いわゆる健康保険とは、加入者が保険料を支払い、病気やケガをしたときに保険給付を受けられる仕組みです。具体的には、保険証を提示すると窓口で支払う診療費や治療費が実際にかかった額の3割になります。また、病気やケガで働けず、給料がもらえないときには「傷病手当金」を受け取ることができたり、「高額医療費制度」といって1か月にかかった医療費が一定額以上になったときに後で払い戻される制度もあります。 保険料は、会社の健康保険に入っていれば給料から天引きされ、そうでないときは国民健康保険に加入し、市区町村に直接支払います。収入がないなど特別な理由があって、国民健康保険料の支払いができない場合は、支払う額を減らしてもらったり、払わなくてもよい事がありますので、市区町村の窓口に相談してみましょう。 24ページ ・公的医療保険(健康保険)で受けられるサービス 病気やケガ:医療費が一部負担に、傷病手当 産休の休業補償:出産育児一時金など 医療費が高額なときお金が戻ってくる ・公的年金(年金制度) 窓口:市区町村役場、年金事務所 年金とは、高齢や障がいで働けなくなったときの生活費のために、あらかじめ保険料を支払っておく仕組みです。日本国内に住所のあるすべての人が入る必要があり、主に次の2種類があります。 1階部分:国民年金(基礎年金)(日本に住んでいる20歳以上60歳未満の全ての人) 2階部分:厚生年金(会社員、公務員が加入) 厚生年金に入る場合は会社等で手続きをし、保険料の半分を会社が負担してくれます。保険料は給料から天引きされます。また厚生年金は国民年金に上乗せされるので、保険料は高くなりますがその分もらえる年金は多くなります。 ・年金がもらえるとき その①老齢年金 年金は20〜60歳までのうち10年以上支払うと原則として65歳になるころに通知が来て、手続きをすれば受け取ることができます。かけた年数や保険料の額によって、もらえる金額が異なります。 その②障害年金 病気やケガなどによって体が不自由になったり、療養のために仕事や生活が今までどおりできなくなったときに支給されます。ただし、それまで保険料を支払っていない人はもらえません。忘れずに支払いましょう。障害年金を受けたい場合は、住んでいる市区町村役場か年金事務所で手続きをする必要があります。自分で手続きをするのが難しい場合は、社会保険労務士という専門家に依頼することもできます。 25ページ ・労働保険 窓口:ハローワーク、労働基準監督署 ①雇用保険・失業給付 会社員は、労働保険のひとつとして「雇用保険」に加入します。保険料は会社が半分負担し、自己負担分は給料から天引きされます。雇用保険に入っているかどうか、給与明細をチェックしておきましょう。雇用保険に加入して一定の条件を満たすと、倒産・定年・自己都合等で会社を辞めたとき、次の仕事が見つかるまで、「失業給付(失業保険)」という、国から一時的にお金が支払われる制度が利用できます。会社を辞めた理由や勤続年数などにより、もらえる期間や開始時期が変わります。失業保険を受け取るためには、辞めた会社から離職票をもらって、住所地のハローワークに申請します。 ②労災保険・休業補償 労災(労働災害)とは、労働者(雇われている人)が仕事中や通勤中に、ケガをしたり、仕事が原因で病気をしたり、それによって障がいが残ったり、亡くなってしまったりする災害のことをいいます。「労災保険」は、労災にあった人にお金を給付してくれる制度です。正社員だけではなく、アルバイト・パート・派遣労働者などすべての労働者が利用することができます。保険料は全額会社負担です。労災のために仕事を休んでお給料をもらえないときに、「休業給付」という給付金がもらえます。これをもらうためには労働基準監督署で手続きが必要です。早めに手続きしましょう。 ・介護保険 窓口:市町村役場 40歳以上の人が保険料を支払い、高齢になって介護が必要になったときに、自分に合った介護を受けることできる制度です。 2 生活支援制度 病気やケガ、失業などで収入が減るなど生活に困ったときや、一時的に生活費が必要な場合に利用できます。民間業者からの借金を考える前に利用を検討してみましょう。 26ページ ・生活保護 窓口:福祉事務所(市町村によって呼び方が違います) 収入が「生活保護基準」以下+手持ちの現金や預貯金が少ない(目安10万円以下)=生活保護を利用できる可能性があります 「生活保護基準」は最低生活費とも言われ、家族の人数や年齢などで決まります。生活に困っていればその理由に関係なく誰でも利用できます。収入がない場合だけでなく、仕事をしたり年金をもらっていても収入が少ない場合は、「生活保護基準」に足りない部分をもらうことができます。また医療費や介護費も基本的に無料になります。 生活保護は憲法に基づいた制度です。失業やひとり親で生活が大変など、生活に行き詰ったときは遠慮せず生活保護を利用して、暮らしを立て直しましょう。住むところがなく、お金もない場合は、生活保護利用までの間、臨時特例つなぎ資金貸付が利用できます。一人で申請するのが不安な人は、司法書士や弁護士に同行を依頼できます(無料)。 ・生活福祉資金貸付 窓口:社会福祉協議会 収入が少なかったり、障がいや高齢のために困っている世帯が必要なお金を借りることができる制度です。10万円までの一時金や教育費は、無利子・保証人なしで借りられ、その他のときは、連帯保証人ありの場合無利子、連帯保証人なしの場合でも低い利率で借りられます。たとえば、就職に必要な知識・技術等の習得や高校、大学などへの就学、介護サービスを受けるための費用等を借りることができます。 ・住居確保給付金 窓口:自立支援相談機関(市町村によって呼び方が違います) 次の①~④の全てを満たした場合に、「一定額」(各市町村による)を上限に実際の家賃を原則3か月間(延長は2回まで最大9か月間)代わりに支払ってもらえます。 ①仕事をやめて2年以内、または自分の都合以外で給料が失業と同じレベルまで減っている ②前月の世帯の収入が、「一定額」+家賃を超えていない ③現在の世帯の預貯金合計額が、「一定額」を超えていない ④ハローワークなどに求職の申込をし、誠実かつ熱心に求職活動を行う 具体的には… 求職申込、職業相談(月2回以上) 企業等への応募(週1回以上) 27ページ 相談したらどうなるの? 私の体験談(21歳女性) 私は高校を卒業後、デザイナーになるために専門学校に進学しました。学費は親に頼れず、授業料の1年分である127万円を奨学金として借りました。授業料は2年で240万円でしたが、姉が返済で大変なのを見ていたので、残りの学費はアルバイトを4つ掛け持ちしてまかないました。 卒業の前の年に、遠方の市の制度を利用してデザイン会社で職業体験をし、卒業後はその会社に就職することになりました。 3月に就職の準備でアパートを借りました。過労による体調不良でアルバイトができず、貯金もなかったため、引越し代やアパートの契約費用のために合計25万円の借金をしました。就職も決まっており、市の支援金(60万円)も申請していたので、十分返済ができると思っていました。 ところが、勤務を始めた5月から、サービス残業や振替休日をもらえない休日出勤、さらに上司からのパワハラがあり、6月には体力気力共に尽きて、出社できなくなってしまいました。 メンタルクリニックに通院し、最終的には会社を退職することになりましたが、あてにしていた60万円の支援金が3か月以上の勤務が条件のため、支給されなくなりました。お金も底をつき、周りに頼れる大人もおらず、途方に暮れていたところ、市の担当者から生活保護申請を勧められました。 若者支援団体の紹介を受け、生活保護申請に同行してもらいました。「親と関係が悪いため連絡をしてほしくない」と生活保護課に伝えたところ、「連絡しない」と言われたので安心して申請をし、無事生活保護が開始しました。 奨学金と借金は支援団体に相談したところ、司法書士を紹介され、破産を勧められました。破産すると将来選択できる職業が限られ、親にも返済の義務が生じると思っていたのですが、その心配はないと聞いて、破産をする決心がつきました。破産や生活保護は怖いものと思っていましたが、「市民の当然の権利だよ」と司法書士から教えてもらいました。 私は「助けて」と言えたお陰で、回復することができました。今、生活保護を受けながら、自立支援施設で就労の訓練をしています。デザイナーになりたいという夢をぜひ叶えたいと思っています。 28ページ 第6章 もしトラブルにあったら 社会に出ると、ときには困ったことに巻き込まれたり、まわりの人とトラブルがおこることがあります。話し合いなどで解決できない場合には、専門家を探して相談しましょう。 1 身近なトラブル 人生の中では、ときにトラブルが起きることがあります。ここでは誰でも経験する可能性がある身近なケースを取り上げてみます。 ケース①お金の貸し借り 友だちにお金を貸したけれど、いつまでたっても返してもらえない。 何度も催促したり、第三者を交えて話し合いをしても返してもらえなければ、最終的には裁判をすることになります。 ケース②万引き(窃盗) お店でお金を払わずに、商品を持って行ってしまった。 お店の商品の所有権はお店にあります。お金を払わずに商品を持ち去って、自分のものにしようとしたら、窃盗罪になります。 ケース③他人にケガをさせた 自転車で走っていて、他の人とぶつかりケガをさせた。 自転車に乗っていて歩行者にぶつかり、歩行者にケガをさせた場合は、刑事上の責任が発生し、さらに自転車に乗っていた人が不注意であれば、民事上の損害賠償責任も発生します。 29ページ 2 困った時にはまずは「相談」しましょう! Q1 契約トラブルや被害、法的な疑問など困ったことがあったとき、誰に相談すればいいですか? A1 公的機関や次のページのような法律専門職に相談しましょう。 ・ためらわずに相談する勇気をもちましょう! ・友達から相談されたときも、適切な相談機関をアドバイスできるようになりましょう。 Q2 「困りごと」はどのように解決するのでしょうか? A2 解決までの「みちのり」は大きく分けて3つあります。 ・法律に書かれているときは、法律を使って手続きをし、解決します。 ・法律に書かれているけれど、争いがあったり、はっきりしないときは、まず相手と話し合いをします。 ・話し合いがまとまらなかったときは、裁判所に判断してもらいます。 Q3 ハンドブックに載っていないトラブルのときは、どこに相談したらいいでしょう? A3 次のページを見て相談先を探しましょう。トラブルに遭う前から、身近な相談先を知っておくことも大切です。 〔ポイント〕 無料で気軽に相談できるところもあります! 一人で抱え込まず、専門家に話してみてください。 ・相談は、大きな一歩!社会を変える原動力です! 相談窓口や相談を受ける法律家のところには、法律で決められていないことについての被害情報も寄せられます。その情報がたくさん集まり、法律が必要ということになると、法律家は法律を作ったり変えたりするよう、国に働きかけます。そのことによって社会も変わります。 例えば、高い金利に苦しむ人の声がたくさん集まった結果、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」という法律が変わり、借りる時の上限金利が下がって高い金利に苦しむ人が減少しました。 30ページ ■主な相談先 ・法テラス 民事・刑事を問わず、法律による紛争解決のサポート機関。資産・収入による制限がありますが、法律相談費用の立替・分割払いの取りまとめもしています(生活保護受給の方は原則免除)。同一案件は3回まで相談無料です。 ・消費生活センター 商品やサービスによる健康被害、霊感商法やデート商法も、マルチ商法などの悪質商法、その他消費者トラブル全般の情報収集や苦情・相談対応をしています。 ・総合労働相談コーナー 解雇、配置転換、賃金の引下げ、採用、職場のいじめ、嫌がらせ、パワハラなど様々な労働問題についての相談に対応しています。 ■適切な専門職を選ぼう ・弁護士 あらゆる法律問題に対応します。また、裁判所や相手方とのやりとりをすべて任せることが可能です。 ・司法書士 金額が140万円以下の民事トラブル、裁判所や法務局に提出する書類作成、返すことが困難になった借金の整理、生活保護の申請等の同行支援などに対応できます。 ■あなたの身近な相談先を調べてメモしておこう 〔説明〕 相談先の名称と相談できる内容が記載され、連絡先・住所・行き方などを自分で記入する表です。 〔説明、終わり。〕 司法書士総合相談センター:民事のトラブル全般 法テラス:民事・刑事を問わずトラブル全般 消費生活センター:違法な勧誘、悪質商法など 総合労働相談コーナー:働くことに関する悩み全般 福祉事務所:生活保護、福祉サービスなど 配偶者暴力相談支援センター:配偶者等からの暴力に関する相談 こころの健康相談ダイヤル:生きづらさ、こころの悩みなど 警察署・最寄りの交番:犯罪や事故にまつわる相談、通報 市町村の法律相談会など:法律相談全般を扱うもの、分野ごと(労働、交通事故など)の相談会など様々なものがあります。 全青司ホットライン:民事のトラブル全般(平日15時~17時)、電話03-3359-3639 全青司専門ダイヤル:生活保護(月曜13時~15時)、労働トラブル(水曜17時~19時)、養育費(金曜13時~15時)、電話03-3351-4911 【原本奥付】 身近な法律ハンドブック これから社会へ出る皆さんへ。 このハンドブックへのご意見・お問い合せは 全国青年司法書士協議会 〒160-0006 東京都新宿区舟町1-18 ロイクラトン四谷 TEL 03-3359-3513 FAX 03-3359-3527 e-mail info@zenseishi.com 記載されている法律は2025年1月現在のものです。 著作権法上、本書掲載の写真・図・文の無断転載・借用・複製は禁じられています。 編集・発行 全国青年司法書士協議会 デザイン・制作 株式会社ミックスフィックス 2025年1月版