'12-07-06 東京電力福島第一原発事故損害賠償に関する声明 ~時効撤廃等被害者救済の視点に立った法整備を求める~

私たち全国青年司法書士協議会は、全国の青年司法書士約3200名で構成する「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体である。当協議会では、東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故発生以降、被害救済活動を行っている。事故の発生から1年3カ月以上が経過した現在においても、被害者の中には、すでに損害が生じているにもかかわらず、未だに東京電力株式会社に対する損害賠償請求の手続きができずにいる方が多数存在するが、この損害賠償請求権が民法第724条の規程により期間の制限(時効の規定)が適用されることになる可能性があるため、期間の制限が障害となって不当に不利益を被ることがないよう、下記の通り声明を発表する。



東京電力株式会社(以下、「東京電力」という)の総合特別事業計画の報告によれば、平成24年4月現在において、避難等区域に指定されている住民らについては、東京電力の仮払賠償金を受領した被害者の約2割が本賠償の請求手続きをしていない。また、東京電力が公表している賠償実績(6月29日現在)によると、東京電力が合意書を送付したが、合意に至っていない件数は約9,000件もある。事故発生から1年3ヶ月以上が経過したにもかかわらず、仮払賠償金支払の対象世帯の約3分の1の世帯においては本賠償の合意に至っていない。また、合意に至っていても、合意が一部項目のみに限られる場合や経済的理由によりやむを得ず合意した方、合意はしたが損害の一部の賠償として合意した方も相当数に上ると考えられる。財物の賠償に至っては、手続きの開始すらしていない状況にあり、東京電力の発表する累計の賠償件数の伸びとは裏腹に、賠償手続きは遅々として進んでいない。そもそも東京電力は、仮払賠償金の請求さえもしていない被害者の数字は把握出来ていないのである。
さらに、広域避難者(いわゆる自主避難者)についての損害は、東京電力が自らその被害を積極的に認めようとはしないため、原子力損害賠償紛争解決センターへの申出、或いは訴訟によって個々の損害の認定を求めざるを得ない状況に置かれている。ところが、これらも十分な周知はなされておらず、東京電力に対して賠償請求が出来ることを知らないまま、避難生活を送っている方々も少なくない。このような中、賠償請求の根拠法となる原子力損害の賠償に関する法律には時効に関する規定がないため、民法第724条の規定により、既に発生している損害については損害が発生した日より3年の期間の経過により、損害賠償請求権の期間の制限(時効の規定)が適用されることになる可能性が懸念される。



そもそも、民法第724条の短期消滅時効の趣旨は,損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場に置かれる加害者の法的地位を安定させ、加害者を保護することにある。今回の原発事故において被害者の方は、損害の発生を認識し得たとしても、これまでの被害者対応で生じた東京電力への不信感や、避難の長期化に伴い賠償請求手続きが出来る精神的余裕が無い生活状況、全ての賠償基準がなかなか明確にされないため請求方法の選択を留保せざるを得ない実情など、被害者の都合として片付けられるべきではない複雑な事情により損害賠償請求ができないという極めて不安定な立場に置かれており、民法第724条の定める期間の経過により、損害賠償請求権の期間の制限が適用されることは妥当ではなく、早急に原子力損害賠償に関する法律の改正等が必要であることは、もはや明白である。



よって、当協議会では、被害者が今後損害賠償請求を行っていく過程で、期間の制限が障害となって不当に不利益を被ることがないよう、また、全ての被害者の損害が賠償されるよう、各種団体と連携し、被害者救済の視点に立った法整備や損害賠償手続きの運用を求めるべく、さらなる取り組みと運動を進めていくことをここに宣言する。


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