'12-07-03 改正貸金業法の見直しの動きを受けての声明 ~上限金利の引き上げ及び総量規制の撤廃に反対~

私たち全国青年司法書士協議会は、全国の青年司法書士約3200名で構成する「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体である。当協議会は、日頃より多重債務問題の抜本的な解決に取り組み、被害救済活動を行う現場の法律家として、自由民主党財務金融部会の「小口金融市場に関する小委員会」、超党派「貸金業法改正の影響と対策勉強会」などにおいて改正貸金業法の規制緩和に向けた見直しの動きが活発化していることを受け、それを強く非難するため、そして、残された課題への更なるとり組みと運動を行う決意を表明するため、下記の通り声明を発表する。





1.多重債務問題の再燃・拡散を招く貸金業法の「再改正」自己破産者は約18.4万人、経済生活苦による自殺者は7800人(平成17年)、借入先が5件以上の人が約200万人、その平均借入総額は約250万円(平成19年2月末時点)など高金利、過剰融資、苛酷な取立てにより深刻化する多重債務問題を解決するために、国民的議論を経た上で平成18年12月に国会で全会一致により改正貸金業法が成立した。つまり、世論がこの改正を後押ししていたということは間違いない。そして、同法は、段階的な施行を経て、平成22年6月18日に完全施行され現在に至っている。高金利の引き下げ、総量規制を柱とする貸金業法の改正と官民を挙げた多重債務対策により、多重債務者は確実に減少に転じており、法改正は順調にその成果をあげている。

 ところが、与野党の一部で貸金業法を「再改正」し、上限金利規制の緩和、総量規制の撤廃を画策する動きがある。その論拠は、平成24年4月12日決算行政監視委員会での自民党平将明議員の発言や報道等から要約すると、「多重債務者は全体の1~2割、残りの8~9割は健全な利用者であった」、「借りられない者が増加しヤミ
金融に流れている。特に過度な規制により零細個人自営業者等の貸金業者からの借入による資金繰りの機会を奪い、ヤミ金にビジネスチャンスを与えた」等である。
しかし、多重債務者は全体の1~2割というのは、ある一時点を捉えて「延滞」等がない率を算出したものであって、平均利用年数が6.5年、10年以上が3割(消費者金融白書平成16年版)など高金利・過剰融資が故に残高を増やしていくという、借手の一定期間における状況変化を全く考慮していない。

 また、ヤミ金が増加しているという客観的なデータは存在しない。平成23年6月27日に開催された改正貸金業法フォローアップチーム関係者ヒアリング対象者提出資料のみならず、日本貸金業協会平成23年度年次報告書(26頁)によっても、貸金業協会が行うヤミ金被害等に関する相談状況は、平成20年度3903件、平成2
1年度3173件、平成22年度2192件、平成23年度1973件と確実にヤミ金相談は減っているのである。






そして、平成21年の中小企業の資金繰りに関する全国の商工会議所会員へのアンケート(金融庁実施)によると資金繰り悪化の原因は、販売不振・在庫調整の長期化等の営業要因、金融機関の融資態度・融資条件、セーフティネット貸付・保証等の信用保証協会や政府系金融機関等の対応が98.4%を占め、改正貸金業法施行の影響
等のノンバンクの融資態度・動向は1.5%に過ぎず、平成24年の同アンケートでは、改正貸金業法施行の影響等のノンバンクの融資態度・動向が0%となっており、貸金業法改正が資金繰り悪化に与えた影響はほとんどない。それにもかかわらず、過度な規制により零細個人自営業者等の貸金業者からの借入による資金繰りの機会を
奪ったという指摘は、法改正当時から繰り返されてきた貸金業界やその意を酌む一部の研究者、国会議員のこれまでの意見の蒸し返しに過ぎない。




ちなみに、現貸金業法においても返済能力に問題がない場合、借入の必要性・緊急性が高い場合、個人事業主が事業計画等を提出し、返済能力があると認められる場合は、年収の3分の1を超えることとなる貸付を例外的に許容している。また、クレジットカードを使った商品購入、銀行、自動車ローンなどは総量規制の対象外であり、これ以上の特例を認める立法事実も存在しない。

以上のとおり、改正貸金業法により、多重債務問題は着実に改善され、現在のところ混乱や弊害は生じていない。





2.多重債務問題改善プログラムの更なる前進、残された課題への対策
我々が求めるものは、このような「再改正」の動きに惑わされることなく、すべての人々が多重債務に陥ることのないよう、改正貸金業法で得られた成果を定着させること、そして、残された課題への対策である。
政府が策定した多重債務問題改善プログラムの4つの方針について、特に①相談窓口の拡充については、とりわけ、地方自治体が、多重債務者の背景にある問題も含めて総合的に問題を解決する機能を効果的に発揮する庁内連携の推進が必要である。②
セーフティネット貸付の提供に関しては、未だ生活福祉資金貸付など社協等の貸付の認知度は低く、地域の関係機関とも連携して制度の周知を行うとともに、特に高金利の貸付がそれを代行するといった事態が発生しないため関係機関が対象者を確実に誘導するよう務めるべきである。③金融経済教育の強化に関しては、特に社会から孤立した人へのアプローチや、家計管理支援などが必要である。
④ヤミ金の撲滅に向けた取り締まりの強化に関しては、平成18年貸金業法改正の際の衆参付帯決議にあるように、「違法業者に関する情報を広く一般から効果的に収集するための手法」「法令違反によって得た利益を剥奪できる制度等について」の検討を進めること、また、ヤミ金との唯一の連絡手段である携帯電話の契約者確認請求が更に活用できるような法整備、カード換金業者など出資法・貸金業法の潜脱を図るヤミ金業者に対する規制を
行うための立法化の検討など、今後も、多重債務改善プログラムの更なる前進が必要である。

 また、残された課題として昭和29年から変わることのない利息制限法の制限利率の更なる引き下げ、保証人が総量規制(貸金業法13条の2第2項)の対象となっていないなど、一層の保証人制度に対する規制強化の実現のための保証人の過剰負担禁止規制、更には、日本弁護士連合会の「債務整理事件処理に関する指針」、「日本司
法書士会連合会の「司法書士による任意整理の統一基準」に反して、和解に至るまでの遅延損害金、完済に至るまでの将来利息の付加、一括返済若しくは短期間での完済での和解に固執する貸金業者等の対応など、多重債務者の生活再建支援とならない対応が増えていることに加え、平成24年3月31日中小企業等金融円滑化法の延長期
限を迎えるも、東日本大震災、欧州危機などリーマンショック以降回復の兆しが見えない不景気等により、中小企業は未だ経済的苦境を脱していない状況からも、個人消費者の任意整理を含め新たな多重債務者救済手段を講じるべき時期に来ていると考える。

 そして、多重債務問題の背景には貧困問題があり、貧困は個人の努力のみによっては解決が困難であることを認識し、生活保護等の社会保障制度の充実並びにワーキングプア(働く貧困層)の解消を目指し、関連機関との連携強化、縦割りではない横断的な支援体制、生活再建から自立支援まで寄り添う支援体制、地域のネットワークの
構築が急務である。




3.結語
以上のとおり、当協議会は、多重債務被害の再燃・拡散を招く改正貸金業法の規制緩和に向けた動きを強く非難すると同時に、現場を知る法律実務家として、新たな被害を助長するような貸金業法の再改正を阻止すること、多重債務被害者の生活再建に向けた支援、そして多重債務の背景にある貧困問題の解決のため、残された課題の更なる取り組みと運動を行うことをここに宣言する。



以上


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