'12-07-03 生活保護の取り扱いの改悪についての会長声明

私たち全国青年司法書士協議会は、全国の青年司法書士約3,200名で構成する「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体である。

当協議会は、8年連続「全国一斉生活保護110番」をはじめとした生活保護に関連する様々な取組を実施しており、現場で市民を支援し続けてきた立場から、一連の報道及び生活保護制度見直しの動きに関して以下のとおり声明を発する。


声明の趣旨

当協議会は、

1.生活保護利用者の現状を無視した生活保護費削減を含む生活保護法の改悪に反対する。

2.生活保護利用者の親族への扶養照会の厳格化及び扶養義務の強化に反対する。



声明の理由

1.現代日本における格差と貧困の拡大は無視することのできない社会問題となっている。長引く不景気は、未だ景気回復の兆候が見られず、失業者の増加・就職難により、暮らしの基盤が脅かされている市民が多く存在する。また、格差と貧困の固定化・再生産の傾向も目立ちはじめ、働けたとしても食べていくのがやっと、あるいはそれすら困難という生活困窮世帯が増加している。警察庁の統計によると自殺者は14年連続で年間3万人を超え、その内経済・生活問題を原因とする自殺者は約20%にまで上っており、我が国の貧困の深刻さを物語っている。このような状況の中、生活保護制度受給者も急増しているが、困窮にあえぐ多くの市民が生活保護制度を利用しているわけではなく、捕捉率(生活保護基準以下の世帯で、実際に生活保護を受給している世帯数の割合)が2割程度であることに加え、本来生活保護が利用できるにもかかわらず窓口で追い返されたり、正当な理由無く生活保護を打ち切られるという保護の現場における違法・不当な運用が珍しくない。当協議会は8年連続で「全国一斉生活保護110番」を実施しており、毎年、全国各地から500件以上に及ぶ相談が寄せられているが、上記のような行政の適法ではない生活保護の運用により、逼迫した現状を訴える相談が数多く寄せられてきた。



2.言うまでもないが、生活保護は憲法が保障する市民の最後のセーフティーネットである。現実に、我々が生活保護の相談や同行支援を行う中で「家族で餓死してしまうのではないかと思っていました。」「孤独死が他人事ではありませんでした。」等の声は多く、また、子どもがいる家庭では、親が生活保護申請したことにより、お腹いっぱいご飯を食べ、人間らしい生活をすることができるようになり、暗い表情をしていた子どもたちが伸び伸びと明るくなった、という事例もある。現在、経済的貧困を原因とした自死、餓死、孤立死、児童虐待、貧困にまつわるDVが存在することは既に周知のことであるが、生活保護の違法な運用が、市民の最後の拠り所を不当に制限することになり、我が国が抱える上記の社会問題をさらに深刻化させる要因となることを忘れてはならない。



3.しかしながら、一連の報道を受け、厚生労働大臣は、生活保護費支給額の一律10%の減額(生活保護基準の切り下げ)や生活保護申請時の扶養照会の厳格化などに言及している。生活保護基準の切り下げについては、まず、最低生活費というのは、地域や世帯の構成によって細かく算定されており、受給者にとっては決して余裕のある金額ではないことを確認しておく。現在の受給額から10%減額は、生活保護利用者の生活をさらに苦しくさせるものであることは言うまでもなく、その検討は憲法が保障する「必要最低限の生活」を侵す恐れがある。よって生活保護利用者の生活実態を考慮せず、財政難を理由にした生活保護費の削減は絶対に容認できない。



4.次に、扶養照会の厳格化及び扶養義務の強化について、一連の報道では、親族扶養義務が大きく取り上げられ、子どもが親を経済的に支えるのは義務のように報道されている。確かに民法には親族扶養義務が規定されているが、兄弟姉妹や成人した子の老親に対する扶養義務は、義務者がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえでなお余裕があれば援助する義務にとどまる。 事実、扶養義務者が扶養を申し出ているにもかかわらず、申請者が扶養を受けるための自己努力をしていないとして生活保護申請を却下した福祉事務所の処分は違法であるという判例もある(岡山地判平成4年5月20日判例自治106号80頁)。以上のように、生活保護を利用するにあたり、親族の扶養は保護の要件ではないのである。にもかかわらず、今回のような報道がなされることで、親族が支えることが前提になると、ただでさえ生活保護の申請をためらっている多くの人々が、より申請を躊躇するようになることは容易に推測できる。これにより孤独死や餓死を代表とする様々な社会問題を招く恐れがあるのである。なお、当協議会が毎年実施している生活保護110番では、親族が生活保護を申請したため福祉事務所から扶養照会を受けたが、自分も生活に余裕がなく困っているという相談が寄せられていることを付言する。よって、当協議会では、扶養照会の厳格化及び扶養義務の強化について、断固反対する。




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