'19-11-27 裁判IT 化を通じて市民に身近な裁判の実現を目指す会長声明を発出いたしました

裁判IT化を通じて市民に身近な裁判の実現を目指す会長声明



2019年11月27日

全国青年司法書士協議会
会長 半田久之


 当協議会は、現在、民事裁判手続等IT化等研究会(以下、「研究会」という)において民事訴訟手続のIT化の議論がなされている。本年9月19日に開催された第13回研究会の資料において「民事裁判手続のIT化の実現に向けて(報告書(案))」(以下、「報告書案」という)が示され、今後、公表されるものと想定される。当協議会は本報告書案について下記のとおり声明を発する。

1 報告書案で示された論点に対する意見
(1)オンライン申立ての義務化について
 今般の裁判手続IT 化によって裁判手続の迅速化・効率化に資することはもちろんであるが、市民
にとっても、郵送費等の費用負担を軽減し、地理的・時間的制約を超えて裁判手続を利用しやすくなることが期待される。このように裁判手続のIT 化には大きな意義が認められる。
 他方、様々な事情によりIT 機器を利用することが困難な市民も存在する。裁判を受ける権利は日本国憲法第32 条によって保障される国民の権利であるため、裁判手続のIT 化においては、これを阻害することのないよう慎重な検討が必要である。
 特に地方裁判所の半数、簡易裁判所に至っては6 割以上が本人訴訟であることに鑑みれば、本人のみで訴訟追行する際もIT 化による弊害を受けることの無いよう十分な配慮と支援が必要である。
 以上を踏まえれば、オンライン申立ての導入にあたっては、当面の措置として、オンライン申立てを士業者に限り義務化することとし、本人訴訟の場合は従来の方法による申立て(書面申立て)とオンライン申立てのいずれか選択可能とすること(報告書案が提案する【乙案】に相当する)が妥当である。
 
(2)ID・パスワードによる本人確認について
 研究会の報告書案によれば、当事者の本人確認については、電子署名が国民に普及するまでの当面の措置として、事件管理システムを利用することができるID とパスワードを発行し、これらを用いて事件管理システムにログインした上でオンライン申立てをした場合には、本人によるものとして取り扱うこととするのが相当であるとしている。
 現行の裁判手続では、訴状や判決書は書面による送達が行われ、また、当事者の出頭が原則とされており、当事者の本人確認について一定の配慮がなされている。しかし、裁判手続のIT 化が実現した場合は、原告が提出したメールアドレスを利用した訴状等のシステム送達が行われ、当事者双方が出頭せずオンライン上のみで裁判が完結することも想定される。このような場合になりすまし等を防ぐためには、より厳格な本人確認が必要であると考えられる。
 その一方で、本人確認の方法を厳格にし過ぎてしまうと、当事者の利便性を損ねオンライン申立ての普及を阻害することも懸念される。したがって「裁判所が必要と認める場合に本人確認のために必要な情報提供を求めることができる」といった規則を設ける等、利便性と手続の真実性の両面に配慮した制度設計が望ましい。
 また、ID・パスワードの管理も重要となってくる。勿論、ID・パスワードの不正取得・不正利用を禁止することは当然であるが、仮に本人が許諾したとしても、本人からID・パスワードの貸与を受け、本人になりかわって訴訟追行を行うことは非弁行為の温床となるため、法律等で明確に禁止することが必要である。

2 本人訴訟におけるIT 化を支援するための提言
 前記したとおり、裁判手続のIT 化は裁判の迅速化・効率化だけでなく、市民にとっても裁判を利用しやすくなる意義があるのであり、本人訴訟においてもオンライン申立てが利用されるよう支援していく必要がある。そこで当協議会は次のとおり提案する。

(1)書類作成人ID・パスワードを導入すべきである
 司法書士はこれまで、裁判所提出書類作成業務(司法書士法第3 条第1 項第4 号)を通じた本人訴訟支援を展開してきた。書類作成業務は必ずしも書類作成のみを行うものではなく、訴訟手続全般に関する法情報の提供や口頭弁論期日への同行(傍聴)等を行い、本人訴訟がより円滑に進行するよう支援するものである。そして、裁判手続のIT化が実現した場合においても、このスタンスは変わるところはない。
 この点、現に裁判のIT 化が進んでいる韓国においては、書類作成を業とする法務士に対してID・パスワードが付与されており、本人による訴訟追行を支援している。わが国においても、訴訟代理人のみならず書類作成者に対してもID・パスワードを付与することが、本人訴訟のIT 化を推進するうえで有用である。
 例えばIT 機器に習熟していない当事者が訴えの提起をする場合に、司法書士は書類作成者として本人訴訟を支援することができるが、このとき書類作成者にID・パスワードが付与されていれば、裁判所提出書類作成業務とともにIT 面のサポートも行うことができるため、当事者はオンライン申立てを選択しやすくなり、結果として裁判手続のIT 化促進に資することが期待できる。
 勿論、書類作成者のアクセス権は、本人にID・パスワードが付与されたうえでこれを補助するためのアクセス権であり、訴訟代理人とは異なりその権限は限定的(例えばウェブ会議に参加できない等)であることは当然である。したがって、付与にあたってはシステムにおいて適切な制限をかけていくことが必要となる。

(2)スマートフォンに対応したシステムを導入すべきである
 裁判手続のIT 化にあたっては、本人が利用しやすいシステムの導入が肝要であり、特に国民の約60%が利用しているスマートフォンへの対応は必須である。この場合、パソコンで利用することを前提としたフル機能版のユーザー・インターフェイス(以下「UI」という)とは別のスマートフォン用UI を用意し、定型書式やチェックボックス方式等も活用してより簡便に訴状等の作成及びオンライン申立て並びに訴訟追行を可能とすることも検討するべきである。
 また、市民が利用するIT 機器も多種多様であることから、オペレーティング・システムやウェブブラウザについても出来得る限り汎用性の高いシステムを構築することとし、更新などにも迅速に対応可能なシステムとすることを求める。

(3)倒産事件・執行事件・家事事件についても早急にIT 化を実現すべきである
 また、民事訴訟手続に限らず、倒産事件・執行事件・家事事件のIT 化についても早急に検討を開始し早期実現を目指すべきである。これらの事件類型は裁判手続のIT 化に馴染み易く、その恩恵も受けやすいと考えるためである。特に改正民事執行法の施行により、養育費に関連する家事事件が若い世代(すなわち、IT 機器を日常的に利用している世代)の間で増加することが考えられる。このとき、オンライン申立てを利用し、より簡便に裁判手続を追行できることのメリットは計り知れないため、一刻も早いIT化の実現が望まれる。
 その際、各手続の特色を踏まえてシステムを設計すべきことは当然である。一例として、後見開始の申立てや相続放棄の申述のように相手方のない手続においては、なりすましを防止するためより厳格な本人確認が必要となることが考えられる。

3 市民に身近な裁判手続の実現に向けて
 わが国の民事訴訟法は代理人強制主義を採用しておらず、当事者が自ら民事訴訟を追行することもできれば、代理人の選任についても当事者の選択に委ねられている。当事者は紛争解決に際し、「自分で訴訟追行する」、「代理人に訴訟追行を依頼する」、「裁判書類の作成を依頼し自分で訴訟追行する」ことを自らの意思で選択できるのである。そして、わが国の民事訴訟手続においては本人訴訟の割合は高く、本人訴訟を選択した人の中にはIT リテラシーに乏しい方も少なからず存在することから、従来以上に本人訴訟をサポートする体制を整備する必要がある。
 既に裁判のIT 化が進みオンライン申立てが完全義務化されているシンガポールにおいては、国の予算を投じ、法務省・政府機関・ボランティア・弁護士会の協力のもと、本人訴訟支援センター(CJC(The Community Justice Centre))を設置、裁判所構内でサービスを提供している。そのサービスの内容は単に紙媒体の書面の電子化にとどまらず、弁護士による無料相談、法情報の提供、同行支援、調停、裁判所提出書類を自分で作成できるツールの提供等、多岐にわたっている。
 報告書案によれば、裁判手続のIT 面のサポート体制については、裁判所のシステムは簡易かつ分かりやすいシステムを採用すること、裁判所構内に書面を電子化するための機器を置くこと、並びに事件記録の閲覧等を行えるようパソコンを設置するなど、裁判所におけるサポート体制が示されている。しかし、裁判所において提供されるサポートは中立公正の立場から手続的側面に限定され、法的サービスの提供はなしえないと思われることから、日本司法支援センター(法テラス)や弁護士会、司法書士会等による「本人訴訟に特化した相談支援を行う」など法的サービスの拡充が求められる。一例として、長野県司法書士会では平成30 年より「本人訴訟・少額裁判支援センター」を設置し法情報の提供や相談等の支援を行っている。このような取り組みを司法書士会の各単位会や弁護士会でも推進されたい。
 なお、当協議会では平成18 年から、裁判所に訴えを提起され、訴状が送達されその対応に困っている方の相談に応じることを主眼とした無料電話法律相談「全青司ホットライン」を土日・祝日を除いた平日に開催し、法律相談のほか法情報の提供や法テラス、弁護士会、司法書士会の面談相談窓口の紹介、(相談者が直接相談・受任を希望しかつ電話相談員が必要と判断した場合は)最寄り司法書士を紹介するなどのサポート体制を構築している。(なお、平成30 年度の相談件数は196 件であった。)
 私たち司法書士は登記申請手続において既にオンライン申請を利用しており、IT を利用した手続きとの親和性も高い。
 そこで、当協議会は、今般の裁判手続IT 化を受け、登記におけるオンライン申請に対応してきたノウハウを活用し、これまで以上に市民の訴訟手続をサポートし、もって市民の権利擁護と公正な社会の実現に寄与するべく、全国の青年司法書士と協力して相談等の支援体制を拡充していく所存である。
                                    以上


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