'19-05-29 資格者代理人方式に係る意見書を発出いたしました。

   資格者代理人方式に係る意見書




2019年5月23日

全国青年司法書士協議会
会長 半田久之

 
 今般、法務省民事局民事第二課において資格者代理人方式に関し、意見聴取が行われたことに際し、当協議会として以下の通り意見を表明する。

【意 見】
1 資格者代理人方式における審査精度の維持の必要性
 現在提案されている資格者代理人方式は、現行法が定める登記申請方式に並ぶ新たな申請方式であるとされている。であるならば、資格者代理人方式における審査精度については、現行法が定める登記申請方式と同程度の精度が維持される必要がある。
 しかしながら、資格者代理人方式が導入された場合、提出される添付情報は、作成名義人が作成した書面(以下、「原資料」という。)を、資格者代理人において確認し、PDF化し、確認した旨を証する電子署名を付したものを提出することとなる。登記官の審査は提出されたPDFの添付情報に基づくこととなり、原資料を直接審査しない。この点、原資料を直接審査している現行の申請方式に比べ、登記官の審査精度が落ちる可能性は否めない。そのため、資格者代理人方式の導入にあたっては、登記の真実性を担保するための手当が必要であると考える。
 資格者代理人である司法書士は職責に基づき、これまでも依頼者の本人確認、意思確認、登記原因の確認などを登記申請の前段事務として行う執務モデルを構築し、不動産登記制度を担ってきた。法務局における審査の前段階として、登記申請前に行ってきた司法書士の確認業務について、その役割を明確化し、不動産登記制度に取り込む事で、資格者代理人方式によっても登記の真実性を維持することが出来ると考える。
 具体的には、登記を申請する場合おいて、現行の登記申請者が提供する登記原因証明情報に代えて、資格者代理人による確認内容を記載した、登記原因等確認情報(仮称)を司法書士においてPDFにて作成し、電子署名を付した上で提供する方策を提案する。
 登記原因等確認情報(仮称)は、現行の登記原因証明情報とは異なり、本人確認を行った経緯などの記載に加え、原資料を提出せずとも、登記官において審査を行うことが出来る程度に、実体関係を確認した内容について記載し、実体関係の裏付けとなる書類も付属書類として同一のPDFファイルにて提出する。
 不動産売買の決済に立ち会い、司法書士の最終判断のもと、融資などが実行されている現状の執務慣行を鑑みるに、不正な登記申請に関し、融資実行後や、売買代金支払い後に、法務局の審査によって判明し、真正な権利者の権利を保全する制度設計よりも、融資実行や、売買代金の支払いがなされる前の段階で、資格者代理人において、しっかりとした調査・確認を行う制度設計の方が、早い段階で不正登記を防止できるため、より取引の安全は担保されるものと考える。
 参考資料として、当協議会が考える登記原因等確認情報(仮称)(別紙1)も提出する。

2 不正行為の抑止のために資格者代理人について新たな罰則規定を設ける必要性
 新たな罰則規定は不要である。資格者代理人方式は申請方式の1つの方式に過ぎず、不正行為に関しては、他の申請方式同様、現行法によって処罰すべきである。

3 不正行為の防止のため,資格者代理人に一定の調査・照会権限を付与する必要性,その内容等
(1)登記原因を証する情報の作成権限
 前記1にて提案している登記申請の前段事務として、資格者代理人が行う確認について、権限を法律上明確にする必要があると考える。具体的には不動産登記法61条によって提供が求められている、登記原因を証する情報の作成権限を資格者代理人に認め、前記1にて提案した登記原因等確認情報(仮称)を作成する権限として不動産登記法に明記する必要があると考える。登記原因等確認情報(仮称)の作成にあたっては登記の原因たる事実の調査や、各種資料の確認などが必要となる。これらの調査権限については登記原因を証する情報の作成権限に付随する権限であると考える。
 技術の進歩により、精密な偽造書類を作成することが可能となった現在において、書類による審査には自ずと限界があるため、当協議会としては、資格者代理人方式の導入可否に関わらず、不動産登記の信頼性確保にあたっては資格者代理人による確認は非常に重要であると考える。よって登記原因を証する情報の作成権限については、資格者代理人方式に関わらず、すべての申請方式において認め、登記原因等確認情報(仮称)を登記原因を証する情報として提供できるようにすることで、登記の真実性が担保されるよう不動産登記法を改正することが必要であると考える。

(2)印鑑証明書の直送制度の導入
 不動産登記申請において、登記義務者の登記申請意思を確認するため、印鑑証明書の添付が義務付けられている場合がある。前記1でも記載の通り、精巧な偽造書類の作成が現在可能となっている。このことは、市区町村長発行の印鑑証明書についても該当するものである。
 資格者代理人が、資格者代理人方式において原資料の確認を行う場合に、真正な印鑑証明書に基づいて、代理権限情報の印影を照合することは非常に重要である。しかしながら、印鑑登録は市区町村の条例に基づいて行われているため、印鑑証明書の形態も様々であり、登記の専門家である司法書士であっても、見慣れない形態の場合、真贋の判定にも困難を伴う。ゆえに真正な印鑑証明書を資格者代理人が確実に取得可能とする権限が求められる。たとえば、印鑑証明書発行にあたり、市民が発送先を指定した場合に、市区町村から指定先に直送する制度の導入などが考えられる。この制度を用いることで、印鑑証明書を発行する市区町村から、資格者代理人が直接受領することが可能となり、偽造などの恐れを考慮することなく、確認業務を遂行できるものと考える。

4 PDFにより送信した原本書類の保管の在り方
  PDFにより送信した原資料の保管については、資格者代理人において個別事例に応じて判断すべきであり、保管義務を定めることは妥当ではない。
 資格者代理人方式の導入によって不動産登記法において規律されるべきは、添付書類の提供方法であり、原資料の保管までを定めることは妥当しないものと考える。
 委任状や印鑑証明書については、原資料の保管の必要性は高いと思われるが、電子署名の普及状況を鑑み、依頼者の電子署名を付したPDF形式の電子委任状の利用を促進することで、原資料保管の必要性を低減していくことが可能である。

5 不動産登記以外の登記における資格者代理人方式の導入の可否及び検討課題
 商業・法人登記への導入が考えられるが、導入にあたっては、登記に公示する趣旨に十分配慮し、登記の真実性が確保されるような方策を検討すべきであると考える。


6 その他
 当協議会は、2018年8月21日に不動産登記制度の未来像に関する意見書(別紙2)を発出した。青年司法書士の立場から、資格者代理人方式の将来的な在り方として「資格者代理人完全オンライン方式」を提案したものである。意見照会にも関わるため、合わせて提出する。
 なお、資格者代理人完全オンライン方式も、登記原因等確認情報(仮称)を提供する申請方式として提案しているが、資格者代理人完全オンライン方式は、資格者代理人方式とは異なり、登記原因等確認情報(仮称)と電子署名された委任状以外の添付書類は一切提供を行わない方式として提案するものであり、より資格者代理人による確認が重要になると考えている。そのため、資格者代理人完全オンライン方式において提供する登記原因等確認情報(仮称)は、前記1にて提案している登記原因等確認情報(仮称)(別紙1)とは、その記載内容や、付属書類も異なると考えている。具体的には、資格者代理人方式においてPDFの形式にて提供される添付書類のうち、登記原因の効力発生に関係する書類などについては、資格者代理人完全オンライン方式においては、実体関係を確認した根拠資料として、登記原因等確認情報(仮称)の付属書類として提出する必要があると考える。
                                            以上


意見書本文は下記よりご覧ください。


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